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2020年11月 8日 開催
オートバイとライダーのための“クリニック”

“コインの法則”が伝える、正しい調整とライディング


開催日

2020年 11月 8日 (日)

開催場所 りんくう公園特設会場 (大阪府)



今回、受診された方の受診理由は以下の通りでした

  リアサスペンションの車高確認と調整をしたい
  フロントフォークの調整をしたい
  バイクの正しい整備と性能を生かした運転をしたい

そんな要望に合わせて、セクションコースで診断と練習を行ない、受信した人が自身の力で正しい調整を学び取り、苦手だったセクションやオートバイ操作が簡単で楽しくなった様子を報告します


  
 

 1. 『 心 』 ・・ 意見交換を通じて、社会との関わり方を考えます


私達ライダーと関係が深い事柄を「お題」として取り上げ、その事柄について意見交換を行なう中で、オートバイの整備やライディング練習だけでは克服できない課題について一緒に考える時間を設けています。 オートバイやライディングとは違って、良否の判断や結論を出す事はせず、一緒に考える事が大切だと考えています。
   
   
今回の「お題」は以下の二つでした。

 【 事故を減らすには 】
 オートバイ事故は、その高い致死率で問題視
 され続け、危険な非社会的な乗り物として扱
 われる要因となり、ライダーに対しても同様
 な視線を向けられる事に繋がっています。

 当日の受診者の方からは、知り合いの複数の
 ライダーが事故死している話から、事故を起
 こさない為の様々な意見を受けました。が、
 クリニックとは別に、直接にGRA宛に熱く熟
 考された意見を寄せて下さった方もあった程
 多くの方が強い関心を持っている話題だと、改めて心強く感じた次第です。この課題に対しては
 行政と個人の両側で対応すべき事ですが、最も利益を受けるライダー側の努力が先行すべき事柄
 である事に間違いはないと考えており、この「お題」は機会がある度に繰り返していきます。

 【トレール量とライディングの関係は?
 バンクさせたタイヤは常にバンクした側へと
 旋回しようとする力が働く為、そのままでは
 進行方向を保てずとても不安定な状態になり
 ますが、その力を打ち消して、タイヤが向い
 ている方向へと進ませる力を生み出している
 のが“トレール(量)”です。
 しかし、その大切な役割は正しく理解されず 、調整や走らせ方によって操縦性も大きく影
 響される事を先ずは講義によって理解を深め
 ました。

 その後、セクション走行を通じてトレール(量)の影響を確認し、トレール量調整を行なって、 その効果の表れ方も体験してもらいました。







 2. 『 バイク 』 ・・ リアサスペンションの車高確認と調整


受診した方の要望は「リアサスペンションの車高確認と調整をしたい」でした。
というのも、所有されている車両は海外向けに開発された車両で、国内向けに販売される際に、サスペンションの変更で前後車高が約30o 程低くなっており、その為に運動安定性に大きな影響が出ているからです。前回、クリニックを受診された後、リアサスペンションのリンクを変更・改良をされており、その為に改めて適正車高の確認と調整をしたいという内容でした。

下の図で示すように、リアスイングアームの垂れ角によって、スイングアームの回転軸(スイングアームピボット)を上向きに押す力と下向きに押す力のバランスが変わります。適正な垂れ角は、
上向きの力と下向きの力が同じ大きさになってバランスして、サスペンションの動きを妨げない角度になる必要があります。






スイングアームの垂れ角が適正か否か、二つの力が釣り合っているか否かを確認するのに最適な方法は、90度コーナーが連続するセクション(4本パイロン四角セクション)を走り、コーナー脱出の度にアクセルを開けて、リアタイヤのグリップ(トラクション)状態を確認する方法です。





この簡単な方法で、コース外からチェックする者は簡単に判定できますが、それ以上にライダー自身がグリップ感(トラクション感)の変化を確実に感じ取れる点が一番大きなメリットです。
一般路上では決して確認する事が出来ない事が、こうしたセクションでのチェック走行では、大変に正確で緻密に、しかもライディング感覚も鍛える練習にもなり、それが一般道での安全な走行に繋がっていくのです。







 3. 『 バイク 』 ・・ フロントフォークの調整


フロントタイヤには様々な力が働いています。その内、タイヤが向いている方向に安定して進ませる力・方向安定性は、トレール(量)の大きさで影響され、特に時速 40q以下の低速度域では大きな影響を与えています。





そして、フロントタイヤをタイヤが向いている方向へと進ませようとする力・方向安定性が大切になる場面は、直立させて直進している時よりも、バンクさせている時に重要になります。その理由は、バンクしたタイヤにはバンクさせた側へとタイヤを旋回させる力が働く為で、その旋回させようとする力を打ち消して安定させているのが“トレール(量)”です。
ただし、“トレール(量)”は、オートバイのサスペンション調整の仕方や ライディング方法で変化する為、適切な“トレール(量)”になる様に、フロントサスペンションの調整やライディングの技術が必要になるのです。



 
 
そんな“最適なトレール(量)”を確認・調整するのに適したセクションは、下図に示した「サークル・オーバル セクション」です。
二つのサークル(円)セクションを離して作り、一方で周回走行を一周行なった後、もう一方のサークルを利用した 180度ターンを行なってから最初のサークルに戻り、一周の周回走行を繰り返す確認と練習方法ですが、二つのサークル共に安定して、思った通りに走行ができる最適な“トレール(量)”になる様にサスペンション調整を行ないました。





このセクションでの走行確認の結果、フロントブレーキを利用してサークル(円)に進入する際に、フロントタイヤが内側へと切れ込み、車体全体が起き上がろうとする挙動が見られました。これは明らかに、フロントタイヤの方向安定性が大きく不足している際に出る現象ですから、フロントフォークの突き下げる調整を提案しました。


14インチの前輪が採用されている事もあり、フロントタイヤの方向安定性は元々小さいので、トレール(量)が不足する場面での不安な挙動は大きく出てしまう特性の車両です。その事も考慮して、突き下げ変更量は大き目にする事を提案して、4o の突き下げで症状は改善した様子でしたが、最善の変更量ではありません。一番大切な事は、トレール(量)の変更で方向安定性がどの様に変化するかを体験・確認する事で、その目的は達成できたので、オーナーさん自身の力で最適な値へといづれ調整は可能になるでしょう。







 4. 『 技 』 ・・ “コインの法則”の体感と練習


二つのサークル(円)のある「サークル・オーバル セクション」を利用して【 コインの法則 】の体感と練習を試してもらいましたので、その内容を紹介します。

転がるコインは、転がる速度が落ちるに従って、徐々に回転半径を小さくなる独特のラインを描く事は誰もが知っており、自然の法則だと理解しているでしょう。それが【 コインの法則 】です。





この【 コインの法則 】は、転がるコインだけではなく、バンクして回転しているタイヤにも当てはまる法則で、減速しながら旋回しているオートバイは下図の様な走行ラインを描くのが最も自然な動きです。





この自然の法則に従った走行ラインを描いている時が、物理法則的に最も無理の無い動きですから、タイヤにとっても一番グリップしやすい動きと走行ラインになります。
しかし、多くのライダーは【 コインの法則 】が導く自然な走行ラインを無視して、ライダー自身が最善と信じる走行ラインにオートバイを従わせる技術がライディングテクニックだと信じ込んでいます。その為、前後ブレーキの操作やバンク角変更操作、そしてハンドルに力を入れる修正操作を常に繰り返しており、それらの操作は全てタイヤのグリップ力を落とす大きな原因になるので、その恐怖感から更に不自然な操作を強いる限界の低い悪循環ライディングを身に付けています。

この自然法則を無視した限界の低い悪循環ライディングから抜け出すには、下の図で示したセクション練習が最適です。





最初に、設置したサークル(円)の周回走行練習を行ない、安定して周回が行なえる速度やバンク角をしっかりと覚えます。次に、そのサークル(円)の周回へ、周回走行の速度よりも高い速度から進入を行ないます。この時に注意すべき点は、サークルの周回ラインに入った時に、安定して周回を行なった時のバンク角と速度になっている事と、進入してからハンドル操作は一切行わない事です。

最初は、ブレーキを一切使わないでの走行がお勧めです。
すると、サークルへの侵入開始する地点・ポイントを間違えると正しくサークルへ進入が出来ない事が分かり、正しくサークルに進入するのに適している進入開始地点(ポイント)は一つしか無い事がはっきりと分かるのです。それが、【コインの法則】に従っているオートバイが一番効率良く走れる進入地点であり走行ラインなのです。
ブレーキ無しで【コインの法則】を体感した後は、ブレーキを使った時の【コインの法則】による進入地点を体感するのが最善の練習方法です。もちろん、ブレーキは途中で緩めたりかけ直したりの操作はしてはいけません。それらの操作はタイヤのグリップ力を減少させる操作だからです。


 
 
一つの簡単なセクションを使って、一つの法則を繰り返し体感練習するからこそ、大切な運転技術が確実に身に付きます。 簡単なセクションで基本的な法則を繰り返してマスターせず、複雑な要素が多く混在したセクションだけを繰り返しても、誤った運転操作方法は修正し難いのです。





この体感練習を、右旋回と左旋回のそれぞれで行なった際、受診者の方から右と左では運転のしやすさが違っていると報告がありました。そこで、前後タイヤの整列状態の確認と、フロントフォークの整列状態の確認を行ない、特に左右の旋回特性の違いに大きな影響を与える、フロントフォークの整列調整を行ないました。すると、左右の旋回特性の差が小さくなったとの感想がありました。これで、右と左で運転操作方法に差をつけず同じにするライディング技術と、より正確なフロントフォークの整列調整を繰り返し行なう必要性も学べたでしょう。







 5. 『 技 』 ・・ 模擬コースで、実践的な技術を磨く


オートバイの基本的な特性を体感して学ぶには、とても簡単なセクションを作成して、運転操作の要素を可能な限り少なくして、特にブレーキを一切使わない走行で、繰り返し練習を行なうのが最も効果的です。

しかし、身に付けた感覚や技術を一般道走行の安全に役立てるには、様々な要素が入れられた練習用のコースで、時速40q 程度の走行速度と前後ブレーキを使用して、体感して学んだ特性や運転操作を応用する練習が必要になります。 そこで、下図の様に、学んだ事が応用できる練習コースを作成しました。
 
 


更に、オートバイの運動感覚とそれを活かした運転操作を効果的に一般道でも活かす為に、走行の一回ずつ、スタートラインからゴールまでのタイム測定を行ないました。 タイム測定は、時々誤解を受けますが、速く走る為に行なうのではありません。毎回、同じタイムを記録する事を目的に行なっているのです。
その理由は、オートバイの運動特性を正しく理解して、適切な運転操作が身に付いていれば、毎回の測定でほぼ同じタイムを記録するからです。逆に、測定したタイムにばらつきが多ければ運転操作の不安定さが多い事の結果ですし、速く走ったと思っても遅いタイムしか記録できなければその運転には無駄が多くて危険だという事を示すので、とても有効な練習方法になるのです。

実際、今回も受診者の方は同様な現象を体験していましたし、練習では上手に走れたのに、実践的コースでは思ったように走れない箇所がある事を発見したようです。







『 最後に 』

オートバイは自然法則、物理法則に従って運動・走行している物体ですが、その法則の理解を一切行なわず、「こんな時はこうして、こういう風に走らせべき」とか「ニーグリップが基本」など、基本を無視したライディング論がはびこっています。

今回のクリニックを受診した人もその事に気付いて、「オートバイって、ボーリングの玉と同じなのですね」と話してくれました。「ボーリングで玉を投げる時は、奥にあるピンを目がけて投げるのではなく、レーンの途中にある三角形の目印・スパット を見て、そのどこに向けて投げるかで玉の行先が決まるのと同じですね」という事でした。

オートバイで走行する場合も同じで、コーナーやカーブに向けて進入する時は、【コインの法則】で解説している通り、手前のどこからバンク・旋回を開始するかで殆ど決まってしまうのです。しかし、多くのライダーや彼らを指導するインストラクターも自然の法則を無視して、オートバイにとってグリップ限界を下げられてしまうハンドル操作やバンク角変更、ブレーキのON・OFF操作を強いて、人間が勝手に思い込んでいる理想的な走行ラインを走らせる事に捉われてしまっている様に思います。

どうぞ、サークル旋回を行なうサークル練習や、コインの法則に従ってノーブレーキでサークル旋回へと進入する練習する機会を設けて、オートバイのありのまま・自然な動きを受け入れて、その上でライディングを組み立てる事に目を向けて欲しいと願っています。




 
 
GRAは、オートバイや運転の不安を取り除き、オートバイとの親密度を高める適切な整備と調整や、オートバイの能力を活かした適切で安全な運転方法為の情報発信を行なうと同時に、社会とのより良い関わり方を築くために、様々な情報発信や講習活動、啓発活動を続けていますので、安全で楽しいオートバイライフに関心がある方は、“クリニック”を受診される事をお勧めします。
また、受診が難しい方へはオンライン“クリニック”での対応を致しますので、不安な事や困っている事、知りたい事などをご連絡ください。


インストラクター:小林 裕之
  
Instructor : Hiroyuki Kobayashi













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 Circle theory  
  オートバイの最も大切な基本特性、「サークル理論」の理解と実践で あなたのライディングは確実に上達するでしょう

  トレール・コントロール ライディング
Riding with Trail Control
  オートバイには、トレール(量)という、優れた機能が備わっています その働きを正しく理解して利用すると、確実にライディングが向上します








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