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フロントブレーキ
「旋回時」こそ大切


Using the Front Brake
when Turning


オートバイの
常識と非常識
  
Common
Sense
& Insane

殆どの 教習所や講習会では「旋回中はフロントブレーキではなくリアブレーキを使うように」と指導しますが、それは、フロントタイヤの確実な旋回特性を利用せず、制動力や旋回効率が悪い安易な運転方法です。安全の為に、旋回時は直立走行時以上にフロントブレーキが大切です。
Most training schools instruct you to use the rear brake instead of the front brake while turning, but it is a false instruction that does not take advantage of the reliable turning characteristics of the front tire and has poor braking power and turning efficiency.For safety reasons, the front brake is more important when turning than when driving upright.



概要  Summary

秋晴れ の青空を窓から眺めながら『オートバイ、なんでも “セミナー”』を開催しました。

今回は、「旋回中にフロントブレーキが使えない」という“声”があり、それから【旋回中のフロントブレーキの使い方】について解析を進めていく事になりました。では、セミナー当日の解析の様子を、当日のホワイトボードの画像とリモート中継した時の文章を交えて、一緒に報告していきます。
 



  
 
 
 
 
 
 
  
  

直進走行時のブレーキは自信ありますが・・
I'm confident in breaking when going straight, but ...



セミナーに 参加した人から、「オートバイを直立させた直進走行中に、フロントブレーキを使った急ブレーキは自信があるのですが、旋回中の急ブレーキは自信がありません。恐いです。」という発言がありました。
殆どのライダーは、教習所や講習会などで 直立・直進走行でのブレーキングの練習や検定を受けた 経験がある筈ですから、直進走行時のブレーキングに自信があるでしょう。リアタイヤが浮くほどにフロントブレーキのコントロールが出来る人も少なくないでしょうが、旋回中でもフロントブレーキを限界までコントロールできる自信がある人は多くはないものです。
  
 
   フロントブレーキ、旋回時こそ大切です


そこで、直進走行時と旋回時とで、ブレーキングの違いやフロントブレーキの役割に違いがあるかを、ホワイトボードに図を描きながら、一緒に、一つひとつ解析を進めてた後で一つの「問い」を一緒に考えてみました。


GRA セミナー 「フロントブレーキ、旋回時こそ大切」

   
   

問い   直進走行時のブレーキングでは、タイヤにかかる荷重は前後
  どちらの方が大きいでしょうか?

  
この問いには、きっと多くのライダーは正しい答えを知っているでしょう。そうです、直進走行中にブレーキングをすると、フロントタイヤの方にリアタイヤよりも大きな荷重がかかります。つまり、ブレーキングで減速すると、車体全体の荷重が前方へと移動しますので、フロントタイヤと路面との接地面に掛かっている荷重が大きくなります。

そして、タイヤの接地面にかかる荷重が大きくなる程にグリップ力も大きくなるので、フロントブレーキを強く使ってもフロントタイヤはグリップを失い難くなるので、更に自信を持ってフロントブレーキを使えるのです。

 
フロントブレーキ、旋回時こそ大切です 2


ただ、リアタイヤは状況が違う事もわかります。 ブレーキングをしっかりすればする程に、リアタイヤの接地面にかかる荷重は小さくなるので、リアブレーキでの減速は期待ができない事がわかります。

そこで、車体をバンクさせ、旋回中にブレーキングをした場合、荷重はどちらに移動するのか?
何故、恐く感じるのか? について一緒に解析してみました。

   
  
   
    
    
   
  
    
  
  
 

直進走行時と旋回時でのブレーキの違いは・ 
Difference in braking between going straight and turning



直進走行時 のブレーキングでは、フロントブレーキを使うほどに、フロントタイヤへの荷重が増えて、その荷重の大きさに比例してグリップ力も増えて、更にフロントブレーキを使った減速ができる事から、フロントブレーキの使い方が大切だと理解できました。 一方で、荷重が少なくなるリアタイヤではグリップ力が減るため、リアブレーキでは充分な減速は期待できない事も解析で理解の共有ができました。

次に、車体をバンクさせた 旋回時にブレーキングをした場合、直進走行時のブレーキングと何が違うのかを、ホワイトボードに図を描きながら、一緒に解析を進めた後で一つの「問い」への解答を一緒に考えてみました。
 
 

GRA セミナー 「フロントブレーキ、旋回時こそ大切」
 
  
   

問い   旋回時のブレーキングでは、タイヤにかかる荷重は前後どちら
  の方が大きいでしょうか?

 
 
多少、戸惑いの声もありましたが、この「問い」への答えは、直進走行時の場合と同じ様に、旋回時のブレーキングでも、車体の荷重は前方へと移動します。そのため、フロントタイヤにかかる荷重の方がリアタイヤよりも確実に大きくなります、 ですから、直進走行時と同様に、旋回時のブレーキングで確実に減速をするためには、フロントブレーキを使いこなす事が必要で、リアブレーキでは減速を効果的には行なえない事が導かれました。

従って、教習所や講習会などで、直進走行でのブレーキング練習では「フロントブレーキをしっかり使うように」と指導する一方、旋回時のブレーキングでは「フロントブレーキは使わず、リアブレーキを使うように」とする指導方法は適切とは言えません。旋回時であっても、フロントブレーキを確実に使いこなせる技術が安全運転には必要ですし、その技術を適切に伝える事こそ、教習所や講習会が担うべき役割だと思います。

ただ、旋回時のブレーキングでは、直進走行時とは違って、バンクさせている事によってフロントタイヤに別の挙動が出ます。その挙動が出る原因を理解して、挙動に慣れる事が大切なのです。

   
 
直進走行時も旋回時も、ブレーキングを行なうと、必ず
フロントタイヤへの荷重が大きくなります
Braking increases the load on the front tires, both
when driving straight ahead and when turning.
効率が良く安全な減速には、大きくなる荷重でグリップ力が増える
フロントタイヤを活かす、フロントブレーキの使用が最も大切です
For efficient and safe deceleration, front braking is important
as it utilizes the front tire's increased grip under load.

  
  
  
   

  




フロントブレーキ、旋回時こそ大切
Front Brake is important when turning



旋回時でも、危険を回避する為には、適切に効率良く減速するためには、フロントブレーキを適切に使いこなす事が大切だと解析で導かれた後、旋回時でも、自信を持ってフロントブレーキが恐くなく使うための解析へと進みました。

そこで、最初に【旋回モーメント】の紹介をしました。 【旋回モーメント】とは、バンクさせたタイヤに必ず働く力で、前後のタイヤに同時に働いて、オートバイを旋回させる力の源の力になっている大切な力です。そして、旋回時こそ、フロントブレーキを適切に使って、フロントタイヤへの過重を増やしてグリップ力を高め、【旋回モーメント】のコントロールによって効率が高くて安全な旋回(コーナリング)技術を身に付ける事が大切なのです。

物理的な原理が理解出来たところで、「問い」を出して、旋回時のフロントブレーキに怖さを感じる理由を考えてもらいました。
 
 

GRA セミナー 「フロントブレーキ、旋回時こそ大切」

 
 
問い   旋回走行時、フロントブレーキを直進走行時ほど使えない理由
  や、使う事に怖さを感じる原因は何でしょうか?
 



それは、直進走行時とは異なり、フロントタイヤのグリップ力をブレーキングの為だけに使えない事と、【旋回モーメント】によってフロントタイヤがバンクさせている方向へと向きを変える挙動が出るからです。

タイヤのグリップ力は、接地面の大きさと、その接地面にかかる荷重の大きさと、接地面での摩擦係数との積によって決まります。旋回時のオートバイでは、自動的に旋回方向へ向きを変えるフロントタイヤによる抵抗力と旋回による遠心力により、フロントタイヤには荷重が加わり、その上でライダーによるブレーキングによって荷重増加によってグリップ力を増やす事が出来ますが、旋回の為にグリップ力を使う必要があり、直進走行時と同じ強さでブレーキングをする事は出来ないのです。

更に、フロントタイヤに荷重が増えるほど、フロントブレーキを使うほど、【旋回モーメント】が大きくなり、旋回方向へとフロントタイヤの向きを変える力が必ず働きます。問題になるのは、【旋回モーメント】が大きくなる事ではなく、向きを変えようとするオートバイにとっては自然な挙動をライダーが理解せず、恐怖に感じ、時にはハンドルを押さえこんで自然な挙動に抵抗してしまう事です。オートバイの自然な挙動を抑え込む行為は、殆どの場合、オートバイ本来の性能を発揮させる事が出来ず、ライダーに恐怖を与えるだけでなく、グリップ力の消失や転倒を招く結果になりますので、旋回時に、フロントブレーキを使う練習と抑え込まない練習がライダーに必要ですし、最も不足しているライディング練習の一つです。

   
 
効率良く安全な旋回には、フロントブレーキでフロントタイヤへの
荷重を増やして、旋回モーメントの活用が大切です
For efficient and safe turning, it is important to increase the load
with the front brake and use the turning moment.
 
 


 
 
  
 
 


<参考解説>“旋回モーメント”について 
About "Turning Moment"




ここに、車体をバンク(旋回時)させた時、フロントタイヤが受ける力を図にまとめていますのでご覧ください。

ご存知の通り、フロントタイヤはステアリングの回転軸に沿って左右に向きを変える機構になっていあるので、バンクさせた時でも、図で示した「物理上の回転中心」を中心に、フロントタイヤは向きを変える事になります。そして、バンクさせた時には、タイヤの接地面は車体の中心線からバンクさせた側へずれているため、走行中は、タイヤによる走行抵抗(力)によって、フロントタイヤは「物理上の回転中心」を中心にして、バンクをさせた側へと向きを変えようとする力(図では青い矢印で示しています)が働きます。これが前輪に働く【旋回モーメント】です。
  
 
フロントタイヤ、旋回モーメントの解説図
 
 
次に、【旋回モーメント】が生まれる原理と、【旋回モーメント】「トレール量」の変化によって変化する事を示した図を見てください。

この図で、タイヤの接地面(中心)に働く「走行による抵抗力」を紫色の太い矢印で表していて、その分力となる緑色の太い矢印の力がフロントタイヤの向きを変える力の元になります。実際には、赤い点で示した「ステアリングの回転中心」と「タイヤの接地面中心」までの距離「モーメントの腕」と「操舵方向への分力」(黄色の太い矢印)との積が【旋回モーメント】になります。
従って、ブレーキングにより、フロントタイヤへの荷重が大きくなったり、走行抵抗が大きくなると、【旋回モーメント】も大きくなり、フロントタイヤはバンクさせた方向へと更に向きを変えようとする事になります。

また、「トレール量」が小さくなると、「モーメント腕の角度」(赤く太い矢印)も大きくなり、それにより「操舵方向への分力」(黄色い太い矢印)も大きくなり、そして【旋回モーメント】も大きくなる事が分かります。つまり、旋回時、「トレール量」が小さくなると、フロントタイヤをバンクさせた方向へと向きを変える力も大きくなるのです。
 
 
フロントタイヤ、旋回モーメントの解説図
 
  
では、走行中に「トレール量」が変化する条件を、一般的なフロントサスペンション形式(テレスコピック方式)を描いた図で確認しましょう。

テレスコピック式のフロントサスペンションの場合、フロントサスペンションの伸縮によって「トレール量」が変化する事が分かります。「トレール量」とは、設計上、フロントタイヤの“方向安定性”を補助する為に設けられた要素で、大きく減少する状況ではフロントタイヤの“方向安定性”も大きく減少する事になります。例えば、走行中、路面上の突起物や落下物に乗りあげた瞬間、一時的にハンドリングが不安定になるのも「トレール量」の特性の一つです。
 
 
フロントタイヤ、トレール量と旋回モーメントの解説図
 
 
そして、
一般的な走行状況で、「トレール量」が減少する状況を生み出す要因はブレーキングです。直立走行時のブレーキングでは、大きくなるフロント荷重とタイヤ自体の“方向安定性”によって方向を乱す(方向性が不安定なる)状況は滅多にありませんが、旋回走行時のブレーキングでは、「トレール量」の減少によって【旋回モーメント】が増す事になり、不用意にフロントブレーキをかけ過ぎた場合は方向安定性が乱れる原因にもなります。
ライダーに求められる課題は、このオートバイに備わっている【旋回モーメント】の特性を充分に理解して、ブレーキングによって増したフロントタイヤへの荷重がグリップ力を高める事を利用し、旋回走行時にもフロントブレーキを適切に使い、フロントタイヤのグリップ力と【旋回モーメント】で安定した安全な旋回(コーナリング)を実現させる為の体験や練習を積む事です。








担当講師:小林 裕之
  
Instructor : Hiroyuki Kobayashi






わからない用語は、ページ下段の【用語の解説辞典】で確認できます
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