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2015. 3. 13 記 

2015年 2月 7日開催 整備&調整セッティング記録会 参加者 への通信ボ

参加した人に対して、当日の評価や今後のアドバイスを届けるページです。
参加した人に宛てた文章のため、言葉の選択や表現方法、用語の難易度など、
他の方には必ずしも適した内容でない点がある事をご了承願います。


  アドバイスを届けます !aa
当日参加された方へ、アドバイスを致します。
読んで参考にしてもらえると幸いです。


ZX-6RR      K君へ

 
2月7日開催、整備&調整セッティング記録会の後、早速に街中と峠道で走行を繰り返して、感想文を送ってくれてありがとう! ございます。

内容を拝見すると、整備と調整で狙い通りの変化を実感できた点もあり、とても率直な感想文に感謝をしています。

ただ、その一方、当日の作業中に説明した事が正しく伝わっていない?と思える点が少しだけあるのです。 いえいえ! 普通の雑誌などでは一切書いていない事ですし、まして作業を進めながら聞き、時には判断を求めたりしたのですから、充分に説明が伝わっていなくて当然だと思っています。

ですから、この「通信ボ」で、今回の作業でオートバイの動きが変わり、信頼できる動きになった理由や原因の説明をします。その説明を通じて、オートバイの仕組みへの理解を深めてください。そして、次の“調整”の機会には、調整(セッティング)によってオートバイの動きや信頼感が変化するので、どうして変化するのかを少しでも解明できたなら、大きな“やりがい”になります。



【 方向安定性の大切さ 】


先日、整備&調整の前に試乗させてもらった時、ZX-6RRで感じた事は「フロント(タイヤ)のマナーの悪さ」です。フロントタイヤが「僕は向いている方向へ、一人で行けるからね!」と言ってくれるような分かりやすい性格でないのです。何も言わず右へ左へと行ってしまってるのに、「何? ちゃんと走っているだろ!」とでも言いたげな態度だったのです。
 
フロントタイヤが向いている方向へ自ら進もうとする力を“方向安定性”と言いますが、ZX-6RR君はその“方向安定性”が低速域で不足している判断したのです。
 
方向安定性”が小さくなり過ぎて不足すると、フロントタイヤは向いている方向とは異なる方向へ向きを変えやすくなり、その“感触”をライダーは感覚の敏感な手を通じて感じ取るので、それが“不安感”を感じる一番大きな要因になるのです。
 
では、あの日にお話した事ですが、“方向安定性”を決める要素は何があるかを覚えていますか。

そうです !
一番大切な「フロントタイヤ空気圧」の他、「フロントタイヤ(ホイール)の回転による慣性力」(ジャイロ効果にも似ています)、そして「フロントタイヤの外径」ですね。(外径が大きいと方向安定性が高く、不整地を走るオフロード車が大径タイヤを採用している大きな理由です)
 
そして、当日も図を描いて説明したように、「トレール量」が大切な要素です。
2種類の台車の前輪で、その構造から「トレール量」が違い、そのために前輪の“方向安定性”
に大きな差が出る事を説明しましたね。



オートバイの「トレール量」は、フロントサスペンションのアライメント(キャスター角、ステムオフセット量、沈み込み量など)によって決まる数値(量)です。



この「トレール量」は、加速や減速に応じて大きくなったり小さくなったりします。
この変化によって“方向安定性”が変化するため、加速時には直進しやすくて、減速時には直進性が減って、曲がり(旋回)やすくなるのです。( ZX-6RR や一般的なフロントサスペンション形式(テレスコピック形式)は全てこの特性になります)
  
特に、時速40q以下の低速で走行する際には、「トレール量」が“方向安定性”を大きく左右する要素になるので、一般道を走行する際には「トレール量」を適切な量に保つ事が大切です。「トレール量」が少ないと旋回する(曲がる)けど落着きが無く、恐怖感をライダーに与えやすく、多すぎると逆に常に安定はしていて、大きくバンクさせても曲がり(旋回力)が弱い特性になります。


・・・ 説明が長くなりましたので、ここで一気に結論を。

2月7日の整備&調整では、ZX-6RR君、フロント(タイヤ)の方向安定性が少なく感じたので、「トレール量」を増やすため、セッティングの一つの手段として、フロントフォークオイルを増量したのです。

フォークオイルの増量で「トレール量」は増やしたので、試走でその特性の変化の大きさを感じて、感想文の「普通のバイクになった」という言葉になったと思います。
  
しかし、“方向安定性”と“旋回性”の二つの相反する要素を、ちょうど良いバランスにさせるのがセッティングの本当の目的です。
現在の仕様は“安定性”の方向へ振っているので、フロントフォークオイルの量を変更して「トレール量」を変更して、バランスの良いポイントを探る作業を次回行ないましょう。
 
  
【 トレール量のセッティングは 】
  
先にも書いたように、加速や減速などの走行状態や乗車人数、平地と坂道などによって「トレール量」は常に変化しています。
  
この「トレール量」をどんな状態でも最適に保つセッティングの基本の一つが、「残ストローク量」の調整です。
  
「トレール量」は図解で多少は理解できると思いますが、実際のオートバイでは直接測定は難しいので、「トレール量」の変化と同時に変化する「残ストローク量」を測定して、その量を最適に保つ調整(セッティング)をするのです。
  
「残ストローク量」というのは、前回行なったので覚えていると思いますが、例えば時速40q 以上の速度で走行中に急ブレーキして停車させ、フロントフォークが最も縮んだ時の場所(位置)の事です。
何故? 最大減速時の「残ストローク量」(最少トレール量)の測定と調整が大切かと言うと、どんな走行状態であってもオートバイは最低限の“安定性”を保つ事が大切だからこそ、急ブレーキ(最大減速)時を基本にするのです。
   
経験したので覚えているでしょうが、インナーチューブにタイラップなどを軽く巻いて装着して、急ブレーキした後でそのタイラップが移動した位置が「残ストローク量」です。


次回の調整機会には、最初に「残ストローク量」の測定をして、前回の 20oからどの程度変化したかを記録します。
そして、その場でフロントフォークのオイル量を変更して、実際に試走して、「残ストローク量」を測定して、「残ストローク量」(トレール量)の変化でオートバイの特性がどう変化したか感じ取り、必要に応じてこの作業を何度か繰り返し、最適な「残ストローク量」を探っていきます。
 
現場でフロントフォークオイルを計量して増減する作業は、専用工具があるので簡単にできます。が、最適なバランス点を探り感じる作業は、その人の経験や感性、能力によって大きく左右されるので、次回でベストバランスが出せるとは思わずにいて下さい。
それよりも、フロントフォークオイルの量、たった 1tの変更だけで、オートバイの特性が大きく変わるポイントがある! という現実と理論を感じ取ってください。


【 整備と整体と調整 】

 
感想文の中で“整体”という言葉をたくさん使ってくれて、ありがとうございます。
 
きっと、オートバイに“整体”なんて、ほとんどの人は考えた事は無いでしょうから、とても良い刺激になっているでしょう。
ただ、“整体”とは、オートバイの部品を本来の正しい位置に整える事と、部品同士の間で溜まっているストレス(こり)を取ってやる基本的な整備作業です。
   
だから、“整体”を行なうと、人間の場合と同じですが、身体(オートバイ)が軽く感じられ、その動きも軽く感じられます。
 
でも、感想文の中で書いてあった特性の大きな変化は、きっと“方向安定性”の変更によって出てきたもの、と理解してもらえると嬉しいのです。


【 今後お勧めのメニュー 】
 
次回、整備の機会があれば、是非リア周りの整備をしましょう。

リアのホイールを外し、サスペンションユニットとスィングアームを外して整備をしましょう。
部品の清掃に始まり、ゴム部品の交換、グリスの交換、金属部品同士が触れ合う箇所への潤滑処理です。特に、リアホイールに装着されているハブダンパーの交換は気持ちの良い走行感を与えてくれると思います。
 
そして、それらの部品をきちんと組み上げた後で、前後のタイヤ(ホイール)のアライメント(整列)とりの作業を行ないましょう。
もちろん、各部のボルト・ナットはネジ山の整備をして、正しい順序で、指定トルクで締めていきましょう。


【 妖怪のひと言 】

どうぞ、次回の整備機会には、車体の清掃、特に主な整備予定部品周りの清掃・クリーニングをして来てください。
 
前回は各部の汚れがそのままだったので、清掃に時間がかかるだけではなく、床や工具が汚れ、良い整備環境とはいえなくなるのです。


『 歯を磨かず、歯医者へ行く者は ○○○ ですよ 』

どうぞ、手が届く範囲だけでも、ざっと汚れを落としてきてくださいね。



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