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Common sense and insane

オートバイにとって、タイヤの点検と管理は大切です。しかし、タイヤの偏摩耗のチェックは、意外に見逃される事柄ですが、実は、編摩耗の確認から、オートバイの仕組みからライディング、そしてセッティングまで、多くの事が分かるです。

Tire inspection and management are important for motorcycles. However, checking the uneven wear of tires is something that is unexpectedly overlooked, but in fact, you can understand many things from checking the knitted wear to riding the motorcycle to setting.


  FAQ, About Tire knitting wear



  タイヤの偏摩耗についての質問がありました
  タイヤの偏摩耗の確認は、とても大切な事なのに、意外に見逃されていますので、
  この機会に、その質問と回答を公開します



【 質 問 】 Question

困っているわけではないのですが、どうしてこうなるのか知りたくメッセージさせていただきました。多くの方のお役に立てそうなら公開してくださってもかまいません。

この画像はフロントタイヤの摩耗の仕方を示している図です。タイヤを輪切りにした断面です。
上の図が摩耗する前、仕方が摩耗が進んだものです。赤丸で示したようにショルダー部(?)がこのように摩耗します。複数のメーカーの複数のタイヤ銘柄で同じような摩耗の仕方が見られたので、なぜこのように摩耗するのだろうと思ったのです。

もしご存知なら教えてください。
    








【 回 答 】 Answer

この度は、タイヤの摩耗について、質問と画像まで添えて寄せてくださり、ありがとうございます。

確かに、オートバイの動きに違和感やトラブルが発生しない限り、タイヤの摩耗状態や、今回の様な “ 偏摩耗 ” に注意を払う人は多くありませんし、雑誌や解説書にも、偏摩耗についての原因などについて解説した資料は目にした事はありません。

では、今回の質問に挙げられた “ 偏摩耗 ” について、「 簡潔編 」から案内をします。
届けて下さった図の様に、タイヤのトレッド面(路面に接する部分)の端部が、まるで羽織の肩部の様に、ピンと張り出す様に残る偏摩耗は、経験上、珍しいものではありません。

その発生原理を説明しますので、下の図と併せてご覧ください。

GRA バンク走行時の遠心力と摩擦力

図に描かれている様に、コーナリング(旋回)中のオートバイには 「遠心力」 が働き、それに応じた「摩擦力」が タイヤと路面の間で発生します。
その「摩擦力」によって、タイヤのトレッド面はトレッド外側に向かって摩耗が発生しますが、摩耗の進み方は、トレッドの形状やタイヤ構造、整備状態、ライディング、そしてオートバイ固有の特性など、様々な原因によって今回の様な偏摩耗は発生します。

仮に、エア圧管理や車両整備を適切にされているのであれば、特に問題視される必要は無いと思います。




 * * * * 以上が「簡潔編」、以下は「基本メカニズムと注意点編」です * * * *









『 荷重と摩耗の関係 』 Relationship between load and wear

摩耗は、荷重によって発生する摩擦(力)によって生じて、その荷重の大きさと摩擦係数、摩擦材(摩耗材)の物質特性によって変わります。

ですから、タイヤの摩耗も、タイヤに掛かる荷重や摩擦の視点で考える必要があります。
そこで、簡単な解説図を使って、タイヤの物質特性が“剛体”の場合と “弾性体”の場合の二通りに分けて考えてみます。

1. タイヤを剛体とした場合の摩耗


GRA 荷重とタイヤの摩耗の関係

図で示される様に、仮にタイヤを剛性体だとすれば、タイヤに掛かる荷重は接地面全面への分布荷重となり、路面との摩擦で生じる摩耗は基本的に路面と平行となるので、偏摩耗は発生しません。

しかし、タイヤは弾性体ですから、上の図の通りにはなりません。


2. タイヤを弾性体とした場合の摩耗

GRA 荷重とタイヤの摩耗の関係

図で示される様に、路面との摩擦力によってタイヤ接地面は変形して、その変形によって分布荷重の偏りが生まれます。そして、場所によって掛かる荷重の違いによって摩耗の違いが生まれる、つまり“ 偏摩耗 ”が発生します。

しかし、“ 偏摩耗 ”が発生する原因は、タイヤが弾性体である以外にも、多くの要因がありますので、それらを順に解説します。
     





『 剛性と摩耗の関係 』 Relationship between stiffness and wear

既にご存知と思いますが、黒く簡単な形に見えるタイヤの内部は、タイヤのトレッド面を路面と適切に接し続けさせる為に、様々な工夫がなされています。



一般的なタイヤ断面図でも示されている様に、タイヤ内部には様々な構造物が張り巡らされていて、部分ごとに剛性(変形のし難さ)が異なります。更に、黒く全て同じゴムに見えても、トレッド面とトレッド面内側のゴムの組成は異なり、トレッド面を支える働きをするサイドウォール部のゴム組成も異なるなど、数種類以上の物理特性の異なるゴムが使い分けられており、それぞれに弾性度や粘性は異なります。

剛性や素材特性の違いによって摩耗の進み方は異なりますが、その影響が一番表れ易い箇所は、二輪用、四輪用を問わず、トレッド面とサイドウォールの接続部です。
特に、二輪用のタイヤの場合、トレッド端部で、トレッド側のゴム(ラバー)とサイドウォール側のゴム との境界線、トレッド端部のトレッド側ゴムの厚み設定により、ご質問の様な編摩耗は発生しやすくなります。

一般的に、トレッド端部のトレッド用ゴムは薄く、そのゴム層のすぐ下に剛性の高いサイドウォール用ゴムが配置されているので、端部ほどに摩耗が進み難い現象は生まれ易くなります。
また、バイアスタイヤとラジアルタイヤでは、同様な理由で、指摘の偏摩耗はバイアスタイヤの方が一般的には発生しやすい構造と言えます。









『 車体設計と摩耗の関係Relationship between body design and wear


オートバイを設計の際に設定される各寸法や仕様の内、「キャスター角」「ホイールベース」「ハンドル切れ角」によっても、質問にある偏摩耗の発生のし易さは異なります。

「キャスター角」とは ハンドル(操舵)回転軸の対地角度の事で、このキャスター角の大小の違いによって、キャスターによって発生する “キャスターアクション” の大きさも異なり、同じ操舵角であってもフロントヤイヤの接地面が異なります。

仮に、複数の異なるオートバイを用意して、直立(静止)させたままハンドルを同じ角度だけ操舵して(切って)、フロントタイヤのどの部分が路面と接地しているかを較べてみれば、一般的に、キャスター角が大きい車両の場合には、キャスターアクションが大きくなり、フロントタイヤのトレッド面の外側(端部側)が接地します。逆に、キャスター角が小さい車両の場合には、トレッド面のより中央部側付近が接地するでしょう。
この現象は、市販車で一般的に採用されているキャスター角の範囲、24度前後と28度前後の違いでも生まれます。

また、ホイールベース(軸離/前後タイヤの接地面中心間の距離)が長い車両の場合、長いホイールベースの影響で大きくなりがちな、旋回半径を小さくして使い勝手を良くするために、一般的にハンドル切れ角は大き目に設定してあるため、前記のキャスター角の場合と同様に、トレッド端部の接地頻度は高くなります。
経験上、キャスター角との関係もありますが、ホイールベースが 1450 o を超える車両の場合には発生し易く、1400 o 以下の車両の場合には発生し難いと思われます。

GRA 整備・セッティング  セミナー





『 車両整備と摩耗の関係 』  Relationship between vehicle maintenance and wear


恐らく、今回ご質問の方の場合には無関係と思いますが、整備の状態によっては 指摘の偏摩耗は発生し易くなります。

〇 その一つは、「 タイヤのエア圧(内圧)管理 」です

タイヤの構造の解説の際、タイヤ各部は剛性を保つ為に工夫をされていると書きましたが、タイヤを本来の剛性(弾性)に保つには “ エア圧 ” が必須条件です。
エア圧を適切に保つ事で、タイヤ設計時に設定された本来の性能が発揮される様になっていて、仮に、本来のエア圧より低い設定で使用した場合には、大きな荷重が掛かりやすいトレッド端部の摩耗が進み易くなります。

〇 二つ目は、「フォークオイルの整備」です。

フロントフォークの適切な整備は、オートバイの操縦性や安定性に大きな影響を与えますが、その中で意外に軽視されているのが、“ フォークオイルの整備 ” です。
フォークオイルは、その名の通り組成はオイルで、エンジンオイルと同様に粘性や潤滑作用、緩衝作用や清浄作用の働きが任されていて、その性能は使用日数(酸化日数)と使用頻度(距離)によって劣化が進みます。
仮に、劣化したままのフォークオイルで走行した場合、フォーク内部の全ての部品の摩耗を進めるだけでなく、トレッド面の接地特性(ロードホールディング特性)が悪化して、確実に偏摩耗は進行し続けます。
フロントフォークオイルの交換サイクルは、安全という観点で考えても、エンジンパワーの損失よりタイヤのグリップパワーの損失は人の健康や生命に大きく関わる事からも、エンジンオイルと同等かそれ以下の走行距離を目処に交換するべきと思いますし、それが快適な走行と適切なライディング技術の習得にも効果的に働くと信じています。

〇 そして、三つ目は、「フロントフォークの整列」です。

2本のフロントフォークで構成されているフロントサスペンションですが、とても残念な事に、完全に平行であるべき 2本のフロントフォークは、平行ではなく、歪んで装着されています。
その歪みによって、フロントサスペンションがストロークする度に、フロントタイヤは左右への操舵を強制されています。
そのため、左右のターン(旋回)特性が異なるだけでなく、左右で操舵角が異なり、左右でタイヤの摩耗が異なってしまいます。
仮に、左右の旋回頻度、距離が大きく変わらないのに、指摘の “偏摩耗”の発生時期や大きさなどが左右で異なったり、左右の旋回・ターン時の操縦特性が異なる場合には、フロントフォークの歪みが大きく影響していると言えますので、「フロントフォークの整列」を強くお勧めします。




解説記事と画像 :小林 裕之
  
Texts and images : Hiroyuki Kobayashi



GRA フロントフォークの整列

GRA フロントフォークの整列



 * * * * 以上、タイヤの“偏摩耗”の発生メカニズムと要因です * * * *




『 関連・参照資料 』Related and reference materials

解説文章の中の事柄を、より詳しく解説した資料および参照資料を、以下の通り紹介します。

■「 タイヤから診る、ライディング 」 GRA公式Webサイト
http://gra-npo.org/lecture/ride/tire%20diagnosis/img_Tire%20diagnosis.html

■「 整備・セッティング セミナー 」 GRA公式Webサイト
http://gra-npo.org/schedule/M%20&%20S_seminar/seminar_top.html

■「 フロントフォークは、二人三脚の如し 」 GRA公式ブログ
http://gra.hatenablog.jp/entry/2015/10/29/233220

■「 フロントフォークの整列 」
(動画)GRA公式Webサイト
http://gra-npo.org/policy/yokai_column/column/garage_201910/garage_201910.html

■「 整備・セッティング記録 ZX-6RR 」
GRA公式Webサイト
http://gra-npo.org/lecture/bike/ZX-6RR/regret_setting_4.html

■「 タイヤの役割と構造 」 ダンロップモーターサイクルコーポレーション Webサイト https://dunlop-motorcycletyres.com/dictionary/about/



        回答 : ライディング ・ セッティング クリニック 講師  小林 裕之






わからない用語は、ページ下段の【用語の解説辞典】で確認できます
「質問」を送信される方には説明を返信しますので、利用してください



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