一番左の最初期の自転車は、脚で地面を蹴って進む形式である以外、
自転車(オートバイも)の特徴である 進行方向を変える舵・操舵機構(ステアリング機構)が前輪に組み
込まれている事がわかりますし、画期的だった事は主要材料である木材で前輪軸を確実に支えつつ、ステアリング機構の剛性を高めて確実に作動させる工夫の中で、ステアリング回転軸が車軸の前方を鉛直に路面と交わり、大きなトレール(方向安定性)も得ている事がわかりますか?
そして、上図で一つ右の自転車を見れば、脚で地面を蹴らずに進む為に駆動機構(当時としては複雑な機構)が備わり、後輪は速度を出せる目的もあってか前輪より大きくなっている事がわかります。
さらに年代を進めて、上図の真ん中の自転車を観察すれば、前輪を直接に駆動する前輪駆動方式になっている事とは別に、前輪の直径が大きくなっている事に注目しなければなりません。同じ回転数でも速度が出せるという利点とは別に、大径の車輪ほど方向安定性が高いという物理的な特性も一緒に得ていた事がわかります。車体を構成する素材は木材から多くは鉄に置き換わり、ステアリング機構も簡素で剛性の高い形式になっていますが、1817年当時の自転車と較べるとその回転軸は鉛直に車軸を通って路面と交わる事からトレール量は無く、方向安定性は大きく損なわれている事がわかります。(前輪駆動方式が方向安定性を補っていたとも言えますが ・・)
その傾向は、時代が進むつれて更に発展する事になります。
そして、見た目にも乗車し難くて不安定に感じるこの形式(ペニー・ファージング)が数多く愛用されるようになったのです。この形式が広く愛される様になった理由は、鉄製工業製品として製造品質と生産効率が高まった以外に、大径の駆動輪(前輪)を採用する事で速度がさらに出せるので行動範囲が広がったためと言われていますが、それ以外に大きな理由がある事を忘れてはいけません。それは、大径車輪が持つ“方向安定性”(または直進安定性)の高さにあったのは間違いありません。当時の欧州の都市部で一般的だった石畳路面や郊外の未舗装路面でも、ふらつきを少なく安定して走行するのに欠かせない“方向安定性”の大きさが珍重された事は容易に推測できます。
しかし、乗降性の悪さの他に制動(ブレーキ)性の低さから、やがて 右の図の様に前輪が小さくなった形式の自転車へと進化してきたのです。では、前輪をあの大径車輪からずっと小さな車輪に変更して、安定して走行するのに欠かせない“方向安定性”は少なくなったかも? と考えた人は良い視点を持っています。 が、心配はいりません。“方向安定性”は、あのペニー・ファージングと同等に確保されている事が、このイラストからも見て取れます。それは、操舵軸(ステアリング回転軸)を、ペニー・ファージングの世代では路面に垂直(90度)だったのを、90度から後傾させる事によって(偶然でもあったと思われますが)“方向安定性”の確保には欠かせない“トレール”を生み出しているのですが、この“トレール”の発見と採用によって方向安定性を損なわずに確保できていると充分に推測できます。
では、自転車が60年以上かけて“トレール”を確保した現在の形に辿り着いた説明はここまでにして、ほぼ同じ形でDNAを受け継いでいる筈のオートバイの場合、自転車と同じ様に“トレール”を確保しているのに、なぜ、テレスコピック形式のサスペンションがこの形式に特有の“欠点”を持っていると言っているのか? そして、そんな“欠点”がありながら、なぜ現代に至るまで採用され続けているのか? 次の項で説明しましょう。
(※ 参考までに、オートバイでも前輪径が後輪径より大きな車両が存在している理由は、この方向
安定性を低速走行時や悪路走行時にも確保する為で、そういう用途の車両に採用されています )
■ スプリングが生む“欠点”と“長所”■
ここからは、多くのオートバイの前輪サスペンション(テレスコピック形式)の持つ“欠点”と、その“欠点”の発生を助けている(?)スプリングの働きの解説を行なって、■ 忘れてはいけない、調整作業 ■ へと順番に進んでいきましょう。
最初期のオートバイは、自転車とほぼ同じ車体にエンジンと駆動装置を付けた程度で、前輪には簡単な形式のサスペンションが一般的でした。しかし、自転車とは異なり、より高い速度で不整路面の走行を強いられるオートバイの場合には、速度の高まりによって大きくなる路面からの衝撃を吸収する能力が求められる様になり、それがサスペンション形式の進化に繋がり、サスペンションの伸縮量(サスペンション ストローク)が大きく構造が比較的簡単な形式として、テレスコピック形式が1950年代から一般車両として採用されて普及していったのです。
このテレスコピック形式は下の図の様に動作しますが、この図からこの形式特有の“欠点”が見て取れますが、それが何なのか分かります?
そう、お気づきの通り、サスペンションのストローク(伸縮)動作に合わせて“トレール量”も変化するのです。テレスコピック形式のサスペンションの“欠点”は、サスペンションのストロークによって“トレール量”が変化して、“方向安定性”が変化する事です。
悪路での走破性を高める為に取り入れるしかなかったサスペンションが、自転車の歴史で獲得したトレールによる“方向安定性”を少なくしてしまう形式・テレスコピックに辿り着いた理由は、舗装路面の普及やストローク量の多さ等の要因とは別に、トレール量減少によって発生する“欠点”を設計やセッティングで抑えつつ、オートバイ誕生当時とは比較できないほどバンク(リーン)角による操縦性の向上を求める様になったためだと言えます。つまり、舗装路面率が高まり、エンジン出力も高まり、高まったタイヤのグリップ性能を充分に活かした運動特性にする為に、速度やバンク角に応じてトレール量が変化して、方向安定性が減って、旋回性を高められる可能性をテレスコピック形式が備えていたのです。
しかし、このテレスコピック特有の“欠点”と“長所”を上手にバランスさせる為には、幾つか設計上、仕様上の課題があるのです。その中でも、スプリングの特性設計(設定)が最も重要になり、スプリングの特性次第でオートバイそのものの印象や評価も左右されるので、メーカーはスプリングの試作とテスト走行に重点を置き、スプリングの仕様変更を度々行なっている理由になっている事を、何となく簡単な事ではないかも知れないなとか、下手をすると変更すると“欠点”ばかりが目立つかも知れないなと感じてもらえたのなら、この解説の目的は達成した事になります。
多くの人は、オートバイの外観を変更するのと同様に、スプリング変更をして“何か”が変わったのを感じて、ただ「良くなった」と信じたい気持ちになるものですが、外観とは違って安全性を損なう変更になり兼ねない事だと私は理解しておいて欲しいのです。今回、質問をしてくれた Rさんにとっては、Rさん自身の車両には具体的にどのスプリングレートのスプリングがフィットするのかをどうやって確認すれば良いのかを知りたかったのかも知れません。
そんな気持ちや関心を持つ多くの人達へは【実践編】解説コラム として、スプリング変更とバランス取りの解説記事・「変化するトレールから考えるスプリング変更」(仮称)を作成予定ですからそれまで待ってもらう事にして、ここでは、スプリング変更に関して多くの人が気にしていない基本知識・ ■忘れてはいけない、調整作業■ を次の項で簡単に紹介しましょう。
これは、スプリング変更作業の時には当然行なうべき調整作業ですが、多くの場合、専門店でさえ行われず説明さえ行われていない事を書きまとめています。どの調整作業もスプリング本来の性能を発揮する為に欠かせない簡単な作業ですし、フォークオイルだけの交換作業でも注意すべき調整作業が入っていますので、是非、参考にしてください。
(※ スプリング変更とバランス取りに関して、【実践編】コラムを作成予定です、ご期待ください)
■ 忘れてはいけない、調整作業 ■
Rさん(仮称)からの質問に1ページ目の回答・解説で回答した通り、標準で1.01 Kgf/mm という高いスプリングレートのスプリングを 0.60Kgf/mm 程度の低いレートのスプリングに変更する事は基本的に大きな問題ではなく、中低速走行時の操縦性や路面グリップ度が良くなる事は充分に期待できます。が、スプリング変更によって生まれる弊害の多くは、スプリングレートの値が原因ではなく、その変更作業時に必要な調整を行なわない事で発生します。
そこで、変更作業時に忘れてはいけない調整作業とその理由を、以下の通り列挙しますので、スプリングレートの変更とは別な原因でサスペンションの“欠点”を生み出して操縦性や安全性の低下を招かないで、“長所”を伸ばしてあげる作業を心掛けてください。
|
1G'時 フロント車高(乗車時車高)を変更させない |
|
残ストローク 車高(フロント バンプ時車高)を変更させない |
|
1G'時 フロント車高(乗車時車高)を変更させない |
Do not change the front height in the state of riding |
フロント車高というのは、上図[フロントサスペンションの伸縮とトレール量の関係]の
中にも記載していますが、フロントサスペンションのインナーチューブが露出している長
さ(図の正立式の場合)の事を指します。なお、倒立式のフロントサスペンションの場合
にはインナーチューブの露出長さ から フロントフォークがアッパーヨーク(ブラケット)
から突き出している量を差し引いた値がフロント車高となります。
では、1G'時 車高(乗車時車高)を変更させてはいけない理由を説明します。
ライダーが乗車した状態での フロント 1G' 時車高は、オートバイの運動特性の基本となる
数値で、この数値が変わってしまうと操縦性や安定性の全てが影響を受けてしまうからです。
今回の質問にあった様に、スプリング(レート)を変更すると その変更によって必ず 1G'時
車高も変わってしまいますので、多少の変化であっても 1G'時 車高の変化で操縦性そのもの
も変化してしまい、スプリング特性とは別な影響を場合によっては大きく受けるのです。
そのため、スプリングレートの変更による操縦性などの特性変化と恩恵を正しく活かすには、
変更作業前に現状の 1G'時 車高を計測して、変更作業後には 1G'時 車高の値が変更前と同
じになる様に フロントフォークの固定位置を上下どちらかに移動させる調整作業が必要にな
るのです。
質問の Rさんの場合、レート 1.01 Kgf/mm から 0.96 Kgf/mm へと変更した場合、
フォークの突出し量を調整変更を行わなかったら、体重 60〜70 s のライダーで、1G' 時
車高は 2.5 mm 程は低くなっている筈で、ターン開始時のフロントの反応が若干早過ぎる、
又は落ち着きがはっきりと減った状態になり、基本的な特性が崩れた状態で正しいスプリン
グの比較評価は難しい状態になっていると思われます。
例えて言えば、スプリングを変更する際に1G' 時車高を変更前と同じに調整しない事は、
Gパンを新しく購入する時に履いた状態でズボン丈(たけ)のカットを依頼しない事と同じ
で、大切に乗り続けたいと考える人ならば必ず行なうべき事です。
< フロント車高の測定例 >
フロントの車高を測定する際は、フロントフォークの正立式や倒立式を問わず、インナー
チューブの露出部に何かを巻きつけて“スライディングメモリー”とします。販売されてい
るリング以外、タイラップやヘアゴムなどでインナーチューブ上を移動し、移動した後でその
場に留まるものであれば何でもかまいません。(図では、ベルトを巻いて端部を接着固定しています)
そして、フォークを一旦伸ばした状態でアウターチューブ側一杯に移動させ、その後で
1G'時 状態や 残ストローク 状態にした後、移動したスライディングメモリーを使って測定
をします。
( ※ 下図は、倒立式サスペンションで、残ストローク量の測定の様子の一部です。この計測した
数値からフロントフォーク突出し量を差し引いて残ストローク量を算出します )
( ※ 正立式サスペンションでは、計測した値がそのまま車高の値になります )
|
残ストローク 車高(フロントバンプ時車高)を変更させない |
Do not change the front height in the state of bumping |
残ストローク時フロント車高というのは、フルブレーキなどでフロントサスペンションを目
一杯に縮めた(フルストローク/フルボトム)させた時のインナーチューブ露出部長さの事
(正立式の場合)で、倒立式のフロントサスペンションの場合にはインナーチューブの露出
長さ から フロントフォークがアッパーヨーク(ブラケット)から突き出している量を差し
引く必要があります。
残ストローク時車高の値は、下の図で示している様に、フロントサスペンションが 一番縮ん
だ時(フルボトム時)の 最小トレール量を表しますが、自転車の進化の項で説明した様に、
フロントタイヤの方向安定性を保ち安全に走る為には トレール量が少なくなり過ぎると危険
な状態を招くからです。(安定の為の限界値を 「安定限界トレール量」と言います)
では、スプリング変更で残ストローク時車高(最小トレール量)がなぜ変化するかと言えば、
スプリングの体積が変わってしまうからです。誤解されやすいのですが、スプリングレート
を変更するだけでは 残ストローク時車高は変わりません。スプリングレートが異なるスプリ
ングに変更する場合には、殆どの場合にはスプリング体積が変わってしまう為、フォークオ
イルの量が変更前と同じままだと、フォーク内のエア(空気)体積が変わり、エア体積でス
トローク量が変化してしまう テレスコピック形式のサスペンションの場合、当然ですが残ス
トローク時の車高も変化する事になります。
従って、どんな場合でも安定性を保ち続ける為に必要な トレール量(安定限界トレール量と
言います)を確保する為には、最も少なくなる状態、つまり残ストローク時の車高を、基本
的には、スプリング交換の前と同じになる様に フォークオイルの量を調整する必要があるの
です。
質問の Rさんの場合は、スプリングのレート資料は分かっていますが、スプリングの線径
(素材の太さ)や外径などの資料はありませんので、現状でどう変化しているかは分かりま
せん。が、それらのサイズを計測できない場合でも、スプリング単体の重さを計測しておけ
ば、そこから体積を計算して、調整すべきフォークオイル量は簡単に導かれたでしょう。
この残ストローク車高が低過ぎると、方向安定性を確保するのに必要なトレール(量)が
安定限界トレール以下になる場面を招きやすく、安定感に欠ける危険な状態にもなります。
一方、残ストローク車高が高過ぎると、方向安定性が必要以上に高くなり、向きが変わり
難い操縦性の低い、思った通りに走れない状態になります。
例えて言えば、スプリングを変更する際に残ストローク時車高を変更前と同じに調整しない
事は、新しいシャツや上衣を購入する時に、ボタンを一切閉じない試着だけでお金を払うよ
うなので、気持ち良く安全に乗り続けたいと考える人ならば必ず拘るべき事です。
ただ、服の場合ならば多少のサイズのミスマッチも“味”とも言えますが、オートバイの場
合はライダーや他者の安全や生命に関わる事ですから、正しく理解をしておく必要はありま
すし、必ず確認と調整が欠かせない事なのです。
(※ 残ストローク量は、一定の路面で一定の速度からの急減速を行なって計測する事を勧めます )
(※ フルストローク・フルバンプは実行が難しく再現性に欠けるのでお勧めしません )
|
Do not change the initial load |
このプリロードの件については、きっと、「分かっているよ!」「同じにしているよ」と言う
人は多くいると思いますが、■忘れてはいけない、調整作業■ の中では、一番誤解が多くて
一番間違いやすい事だと確信しています。どうぞ、念の為に、一度説明を確認してください。
( ※ スプリングとスペーサーを合わせた長さを、変更の前後で同じにするだけでは間違いです
プリロード・初期荷重を同じに合わせる作業が必要です )
スプリング変更の作業をする場合、多くの人はスプリングを変更する時にスプリングの長さ
が変更前とは違う場合には、上図の様に
スプリングとスプリングスペーサー(通称:カラー)
とを合計した長さが変わらない様にスペーサーの長さを加工して組み立てていると思います。
また、変更前のスプリング長さと 変更後のスプリング長さが同じだったなら、疑問を持たず
そのまま組み立てているでしょうが、実は、そこに間違いが潜んでいるのです。
それは、プリロード(初期荷重)の基本法則を見過ごしているからです。
では、そのプリロードの基本法則の説明をしましょう。
つまり、思い通りに走れる操縦性や安定性の味付けを行なうプリロード(初期荷重)は、
オートバイとライダーによって最適な値があり、その値はスプリングレートを変更しても
変えない事が変更作業の原則となります。
従って、スプリングの変更作業を行なう時には、スプリングやスペーサーの長さを合わせる
以前に、変更前のスプリングに掛かっていたプリロードを計算して求めておいて、変更作業
の時に 変更するスプリングのレートに合わせ、必要な組み立て時のスプリング縮み量を計算
で求めて、その算出した縮み量になる様にスペーサー長さやアジャスターを調整する必要が
あるのです。
(※ 参考までに、私はスプリング変更時、プリロードを 8.8 Kgf を基準にセットアップしています )
* * * * *
プリロード(初期荷重)と言えば、オートバイを良く知っている人は「イニシャルでしょ!」
と理解しているのですが、イニシャルアジャスター(プリロード調整装置)の位置や調整方法
しか頭に浮かばず、スプリングに実際に掛かっている荷重(力)の大きさを考えていないので、
その荷重の値をキープする事の大切さは理解できていないと思います。
ぜひ、スプリング変更の予定が無い人も、この機会にオートバイに備わっている調整機構の
理解に役立てて下さい。
では、プリロード(初期荷重)を求める計算式をご覧ください。
つまり、プリロード(初期荷重)は、スプリングを縮めた量ではなく、アジャスターの調整
位置の事でもなく、スプリングレートとスプリングが縮められた量との掛け算で決まるので
す。
従って、スプリングを変更する際には、スプリングやスペーサーの長さを変更前と合わせる
のではなく、変更前にスプリングに掛かっていたプリロードをスプリングレートと縮み量か
ら計算しておいて、変更するスプリングレートに合わせて組み立て時に必要なスプリング縮
み量を算出して、変更後のプリロードがその値になる様に調整が必要になるのです。
ちなみに、質問してくれた Rさんの車両の様に、一般的な倒立式フロントサスペンションの
場合、組み立て時のスプリングの縮み量の計測は以下の図の様に比較的簡単にできます。
もし、このプリロードをスプリングの変更前後で同じにしなかった場合、どんな事になるの
か想像してみてください。プリロードが高くなれば、スプリングが反応して伸縮を行なう荷
重の大きさも高くなるので、サスペンションの動作が鈍くなり、あたかもスプリングレート
が高くなったかの様に感じる事になります。 一方、スプリング変更作業でプリロードが低く
なってしまうと、それだけであたかもスプリングレートが低くなった様に感じられます。
つまり、スプリングレートを変更して効果を発揮させるには、必ずプリロード(初期荷重)
は変更させない事が一番大切であり、この調整作業を怠るとスプリングレート変更の本来の
効果を発揮し難いのです。仮に、スプリング変更の雰囲気だけを味わいだけなら別ですが、
真剣に操縦性や安定性を良くして、オートバイを楽しく安全に乗り続けたいと考えるならば、
決して疎かにしてはいけない調整作業だと理解してください。
例えて言えば、プリロード(初期荷重)は調理の塩加減と良く似ています。
美味しいと評判の料理をそのレシピに合わせて調理をする時、1人分で書かれたレシピを参
考にして 2人分を調理するために 具材や水加減は 2倍にしても、塩だけは 1人分しか入れ
ないのと同じで、具材の風味やレシピの良さ以前に、きっと美味しくは感じません。
オートバイの場合も同じで、メーカーの設定した値はレシピと捉えてその値を意図を理解し
て守るのが基本です。仮に、プリロード調整装置で調整している場合には、スプリングの
変更前と同じプリロード(初期荷重)を正確に再現する事が基本で、1G'時状態の操縦性の
再現とスプリングレート変更の効果の確認には欠かせない調整です。
* * * * *
< 正立式フロントフォーク や 調整機構が無い車両 でのプリロード調整 >
以上、Rさん(仮称)の質問に応じて倒立式フロントフォークの車両で、各種の調整機構が
装備されている車両を前提に解説を進めてきましたが、ここで、正立式フロントフォークの
車両の方や、プリロード(初期荷重)調整機構(イニシャルアジャスター)が装備されてい
ないオートバイを所有する方に向けて補足の解説を行ないます。
先ず、正立式フロントフォークでのプリロード(初期荷重)を計算で求める場合、倒立式
の場合とは異なり、更に注意深い計測が必要になる事を伝えます。
一般的な倒立式フロントフォークの場合には、先に画像で示した通り、トップキャプを装着
した状態と外した状態を比較するだけで“スプリング縮み量”の計測が可能ですが、正立式
の場合には、インナーチューブを一番引き上げた時の上端位置を基準にして、トップキャッ
プ装着前のスプリング(またはスプリングスペーサー)の上端までの距離を計測して、それ
からトップキャップを装着した時にインナーチューブに入り込む長さを元に計算するのです
が、盲点となるのは、トップキャップを装着するとインナーチューブの露出長さが数ミリ程
長くなる事です。これは、サスペンションの伸縮作動時、伸びきった際の衝撃を緩衝する機
構が組み込まれている為で、どの正立式フロントフォークでも同じ機構が備わっています。
(説明が長くなっていますが ・・ )
きっと、その辺りの事は解説図を加えての説明が必要だと思います。関心の高い方からの要
望があれば、改めて 別の解説コラムを通じて解説をしますので、是非、ご連絡願います。
続いて、プリロード調整機構の無いフロントフォークの車両での解説に移ります。
プリロードの調整機構の無い車両の場合は、正立式と倒立式を問わず、組み立てた後でのプリ
ロード調整が全くできないので、スプリング変更の際にはプリロード(初期荷重)の確認と
スペーサーの加工などの調整作業に充分な注意が必要になります。
1980年代以降、テレスコピック形式のサスペンションの“欠点”を小さくする為の装置の
一つとして登場したプリロード調整機構ですが、設計や品質の改良でその“欠点”の克服が
進んだ現在では、プリロード調整機構が備わらない車両が増える傾向を示しています。
それらの車両は、ある意味で熟成されたレシピを背負って登場する車両たちですから、その
バランスを崩さないためにも プリロードの管理・調整には旧世代の車両よりも配慮が求めら
れている事は間違いありません。