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Common sense and insane

オートバイの金属部品の中で、一番の働き者で一番早く損耗する部品はベアリングです。だから、車体各部のベアリングの状態を確認して適切なケアを行なう為の分解整備は、オートバイにとって最も大切な整備です。

The most hard-working and fastest-worn component of a motorcycle's metal parts is the bearing. Therefore, disassembly and maintenance are the most important maintenance for motorcycles in order to confirm the condition of the bearings in each part of the body and provide proper care.


  Bearing life is motorcycle life




■ まえがき ■  Foreword


中古で購入したという車両( 2011年型、トライアンフ・スプリント GT )の分解整備を行なう機会があり、その時、破損していたベアリングの交換修理で体験した事が印象的だったので、ここにその顛末を 3回に分けて書き留めます。

初年度登録が2011年1月の車両で、10年間の
屋内保管で走行距離が 4万km と、決して壊れる様な使用状況ではないものの、同じ様なトラブルは他の皆さんも遭遇する可能性がありますので、必ず役立つ発見や知見があると確信しています。


After receiving a request from the owner of the 2011 Triumph Sprint GT for maintenance, saying that it was "difficult to ride", I experienced impressive damage repair of the bearing which would not have been easily damaged, so I will write down the situation in 3 separate cases. I'm sure it will be useful for many people's motorcycle life.




トライアンフ スプリントGT ベアリング破損顛末記







『 ベアリングは“関節”です 』 Introduction of Bearing Roles and Types


ベアリングとは、回転運動をするエンジン内部のクランクシャフトや車輪(ホイール)などを固定する「軸受」とも呼ばれ、回転運動を支えるという大切な役割を担当している金属製の部品です。 オートバイを人間の身体に例えると、膝や腰、肘や首を自由に動かす為の“関節”の役割を担当しているのが“ベアリング”で、オートバイの体内でも数多く活躍しています。

そんな重要な働きを担当して常に働き続けている部品ですから、オートバイの金属製部品の中では一番早く損耗する部品です。そして、その損耗によってオートバイのコンディションは大きく低下するので、車体各部のベアリング達の健康状態の確認とケアを行なう為の分解整備こそ、オートバイ整備の基本と言えます。

今回、 そんな分解整備で破損が確認できたベアリングは、リアサスペンションのリンク機構に使われているベアリングで 「ニードルローラーベアリング」(以降は ニードルベアリングと記載)と呼ばれるタイプで、ベアリングを収めるスペースが大きく取れない場所でよく使われる二種類のベアリングの内の一つです。

ここで折角なので、その狭い場所で使われているに二種類のベアリングの特徴を紹介しましょう。
 

「ベアリングの命はオートバイの命」 より1ベアリングの種類


一つは、一見、何の変哲(へんてつ)も無い金属板を曲げただけに見える「メタル ベアリング」で、エンジンの中で一番重くて一番大きな力を受け持つクランクシャフトという部品を支えたり、フロントフォーク内部の上下2ヶ所でスムーズな伸縮(スライド)運動を支えたりしています。

そしてもう一つは、今回の破損で話題の主役「ニードルベアリング」です。
このベアリングがオートバイでよく使われている場所と言えば、リアのスイングアームの根元・ピポットシャフト部やリアサスペンションを構成するリンク機構にあり、スムーズな動きを保つ為に活躍しています。


「ベアリングの命はオートバイの命」 より スイングアームのベアリング

「ベアリングの命はオートバイの命」 より サスペンションのリンク部のベアリング
  






『 貧乏くじにボディガード 』  The toughest environment and assistant


「メタルベアリング」と「ニードルベアリング」、狭い場所で使われる二種類のベアリングはどう使い分けされているかと言えば、オイルで常に潤滑が保証されている場所に配置されるのが「メタルベアリング」で、オイル(グリス)での潤滑は決して充分に期待できない場所に配置されるのが「ニードルベアリング」です。

ベアリングにとって、オイル(グリス)による潤滑は欠かせない大切な要素で、人間の関節に例えて言えば“軟骨”と“関節液”がスムーズな動きには絶対不可欠なのと同じですが、狭苦しい場所で働かされる上に、必要不可欠な潤滑用のオイル(グリス)に不安を抱えながら働く「ニードルベアリング」は、数多く使われているベアリングの中でも、一番過酷な貧乏くじを引いたベアリングだと言えるでしょう。

ただ、貧乏くじを引いた場所で働く「ニードルベアリング」には、頼もしいボディガードが常に傍らにいます。それは「オイルシール」というゴム製の部品で、「ニードルベアリング」の正常な働きに欠かせないオイル(グリス)の蒸散を防ぎ、ベアリングにとって天敵の水や埃が外部から入って来ない様にシャットダウンしてくれる頼もしい奴です。







『 ベアリングの仕事現場 』  Needle roller bearing work site


ニードルベアリングの全壊事件という、涙なくしては語れない波乱万丈の事件簿の顛末へ移る前に、破壊した原因が誰にも伝わり易くする為に、ニードルベアリングの仕事場環境を図で説明しておきましょう。

「ベアリングの命はオートバイの命」 より ニードルベアリングの組み込み図

イラストの中、赤色で示した部品が「ローラー(ころ)」と呼ばれる円柱状の部品で、この「ローラー」が回転する軸(今回は スリーブと呼ばれる部品)を支えていて、左の画像を見れば何本ものローラーがある事が分かるでしょう。 そして、この「ローラー」が隣同士で密接しない様に距離を保つ「保持器」という部品があり、それらを全部を包み込んでいる金属製の外側の部品が「シェル(シェル形ケース)」という部品で、これらが一体になって「ニードルベアリング」と呼ばれています。

そんな「ニードルベアリング」を守るボディガードが、イラストの中で緑色に塗られている部品「オイルシール」で、ベアリングが働いている部屋(空間)を両側からゴム特有の弾力性を利用してシール(封鎖)して守っているのです。









■ ベアリング破壊現場の検証 ■  Verification of bearing destruction site


『 ニードルベアリングが全壊 ? 』 Completely destroyed needle roller bearing


ニードルベアリング の特徴は、狭いスペースに収まる構造でありながら、回転軸を“ローラー(ころ)” で支える構造になっていて、回転時の摺動抵抗が小さい事です。

ただ、狭いスペースで働く為に、幾つかの犠牲的な設計によって生まれている事を忘れてはいけません。その一つは、細く長い “ローラー”(ころ)が収まっている外殻( シェル )が薄くて強度が高くない事で、そして二つ目は、ベアリングを水や埃から守る為のオイルシールも小さく作る必要からシール性(ボディガード性能)がさほど高くない点です。
そのため、他の場所で使われている ボールベアリング(ラジアルボールベアリング)等のベアリングと較べて、損耗・破損しやすく、実際に寿命が尽きた車両を見る事も少なくありません。

が、そんな華奢な構造をしているからと言っても、定期的な分解整備で点検とケアをしてあげれば、下の画像の例の様に壊滅するものではありません。それほど、この破損は酷過ぎるのです。



「ベアリングの命はオートバイの命」 より 壊滅したニードルベアリング






『 ベアリング全壊の原因は ? 』 What is the cause of bearing damage?


何故、ニードルベアリングが破壊したのか と聞かれれば、今回の場合は、スリーブやリンク締結用ボルトの軸部に錆が多く発生している状況から考えて、恐らく、高圧水洗浄機でリアサスペンションのリンク部を洗浄してしまった為だと言えるでしょう。

高圧水洗浄機による高い圧力での水噴射やオイル・油分を除去してしまう洗剤攻撃に、ベアリングが働く部屋を水や埃から守っているゴム製部品「オイルシール」が負けて、高圧洗浄機を使う度に少しずつ水を中に入れてしまったので、ベアリングに必要なオイル(グリス)が乳化&劣化してしまい、やがて潤滑不良による発熱によってオイルの蒸散も招き、遂にはベアリング内部が完全に破壊されてしまったと言えます。

車体各部のベアリングを守る為に数多く活躍している「オイルシール」の中で、ニードルベアリング用のオイルシールは、サイズの関係で最もシール性能が低いので、常に気遣ってあげる必要があるのです。それに加えて、オイルシールはゴム製品ですから、ゴムに浸潤して変質させる溶剤が配合された パーツクリーナー が、汚れ落としの目的でスプレーされていたとすれば、それもベアリングの命を縮めた可能性は大きいでしょう。
どちらにしても、パーツクリーナーは、ゴム製品だけでなく、金属表面にも決して良くない影響を与えるので、オートバイ整備には使わないのが正しい整備と言えるのです。








『 応急処置と部品手配 』 First aid and parts arrangement


まさかベアリングが壊滅しているとは想像しておらず、交換用のベアリングの用意は無いので、すぐに修理は不可能だから、部品が入手出来るまでの間は、入庫時よりもまともに作動する様に応急処理をしておくしかない。
脱落せずに残っていたローラーを正しい位置に戻し、グリスをたっぷりと奢ってあげて組み立てて、ベアリング交換の時までは充分に気をつけてもらう事になったが、応急処理&組み立て後に試乗したオーナーさん曰く、「リア サスペンションが怖くなくなった」との感想でした。

ここまで酷い破損は滅多に無いとしても、ベアリングに必要な定期的な分解整備を受けられず、今回の例に近い状態のまま走らされているオートバイは決して少なくない筈だし、それに乗っているライダーも「乗り難いのは自分のせい」と思い、思い込まされている例も決して少なくない筈だ。
大変に困った事だし、何とかしたいものだ。

なお、交換に必要なベアリングのサイズ(規格)は、分解した時に計測して、以下の通りでした。

「ベアリングの命はオートバイの命」 より 破損したベアリングの規格

後は、車両メーカー(英国)に該当部品を発注して到着まで 2〜3週間待つか、国内で一般市販されている同じ規格(サイズ)のベアリングを手配するか、オーナーさんに手配してもらう事になりました。



< What is on this page >
Needle roller bearings used in harsh environments require regular disassembly and maintenance. However, in this case of needle roller bearings used in the link mechanism of the rear suspension, the oil seal was defeated by high water pressure from the high pressure washing machine, and the intrusion of water caused fatal damage to the bearing. It is considered.
As a preventive measure, it is important not to wash with a high pressure washer or detergent and to periodically disassemble and maintain.


解説記事と画像 :小林 裕之
  
Texts and images : Hiroyuki Kobayashi








* * *  続編・次ページは 『 トライアンフ のミステリー? 』です * * *
The title of the next page is "The Mystery of Triumph".


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