オートバイが発明された100年と少し前、最初の頃のオートバイは自転車とあまり変わりなく、リアサスペンションさえありませんでした。しかし、現代ではほとんどのオートバイにはリアサスペンションが装着されています。
それは何故か?
この第18章まで、解説を読んだ人にはきっと理解できるでしょう。
当然、乗り心地を良くする事は当初の大きな理由の一つですが、それと同時に操縦性を確保するための役割が大きくなっていった事が理解できるでしょう。
1910年代、オートバイは乗り心地と操縦性、安全性の確保のために、タイヤのエアボリュームを大きくして対処しています。未だ サスペンションも無く、自転車と変わらない姿ですが、当時のエンジン性能と路面状況を考えれば充分だったと言えるでしょう。
1920年代、路面状況に大きな変化はなく、未舗装路やデコボコ道が多い状況の中、エンジン出力の向上に伴い常用速度が上昇するにつれ、操縦性や安全性を確保する為に、フロントにサスペンションが装着されるようになりました。しかし、そのストローク量は少なく、リアは従来通りの自転車同然のままでした。
1930年代、第二次世界大戦前、レースが数多く開催されるようになり、航空機技術の発展に伴って、エンジン出力は更に高まり、車体構造にも変化が表れて、自転車のような姿から脱皮するまでになりましたが、未だにサスペンションの重要性は理解されず、リア側の乗り心地を サドルクッションでカバーしていた時代です。
1950年代、世界大戦のブランクを経て、市民生活の場にもオートバイが登場するようになり、技術開発の恩恵もあり、ようやく前後共に オイルダンパーを伴ったサスペンションが装備され、さらに現在のオートバイに近い姿になっています。しかし、サスペンションのストロークと能力は低く、サドルクッションを見るだけで、乗り心地の確保に大きく配慮した設計が見て取れます。
1970年代、 日本でも道路の舗装率も徐々に向上し、それまでは通勤や商用利用が主だったオートバイから、趣味としての高性能オートバイが多く販売された時代でした。毎年の様に向上を続けたエンジン出力と較べて、タイヤのグリップ性能の向上が追い付けない状況が課題となり、タイヤのグリップ性能の正しく発揮させるためのサスペンション開発が進み始めたのもこの時代からと言えます。
2000年代、エンジン出力は人間が扱える限界域に近づいた事と、環境や資源の課題から向上の歩みを止め、それに代わってタイヤのグリップ性能は向上を続け、それと同時に、1990年代の純粋レーサーよりも大きなバンク角を許容する程に車体設計技術が進み、それらの性能を正しく発揮させる為に欠かせない装置として、リアサスペンション は更に大きな役割を果たしています。
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こうして発展してきたリアサスペンションですが、その役目と重要性を忘れ、ライダーだけでなく、メーカーや販売店、メディア各社は、リアサスペンションの性能を正しく発揮させる為の知識や情報を評価せず、あたかも ファッション の一つとして扱っている事に違和感を感じます。
リアサスペンションは、タイヤの次に オートバイにとって大切な装置です。
正しい知識と情報を得て、調整・セッティングを施し、そこから得られる体験をフィードバックさせながら、オートバイを楽しむライダーが増える事を願っています。
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