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YOKAI's murmur 



トラ君の
フロント スプリング の交換 (2)

 Replacing the front springs
of Triumph Part 2


     以前から、予定していたフロントスプリングの交換作業を始めています
     前回報告した、フォークの分解、スペーサーの製作、そして オイルレベルの
     計算に続き、作業を進めていきます


『 プリロード量を変更前と同じに設定 』 Adjust preload to same value as
                         before replacement


スプリング交換の時、もう一つ気をつける事は、プリロード量を交換前と同じにする事だ。
プリロードとは、フォークを組み立てた時にスプリングに掛けておく荷重の事で、この値次第でオートバイとの会話が簡単になったり難しくなったりするから、スプリングを交換する際には交換前の プリロード量と同じにする事が大切だ。もし、異なるプリロード量で組み立ててしまうと、スプリングを交換した事による変化だけでなく、プリロード量の変化による操縦性などの変化も一緒に感じてしまう事になるし、オートバイとの会話を交換前と同じ様に出来なくなる。それでは、スプリングを交換する意味は無いし、交換によるセッティング(最適調整)の

このプリロード量合わせの事を言うと、プロのメカニックの人でさえ意図を正しく理解できず、

  「 大丈夫ですよ 」
  「 交換前のスプリングとスペーサーを合わせた長さと、交換後の長さを同じしているし、
    アジャスターの位置も同じになっていますから 」 と言われた事もあった。

残念だけど、それでは スプリングを縮めた量は同じになるかも知れないけど、スプリングレートが変わっているのだから、同じ量を縮めてしまったら、同じ初期荷重(プリロード)にはならない。
プリロード量(初期荷重)はオートバイとの会話の基準だから、スプリングレートと縮めた量とを掛けて計算して、交換前と交換後を同じにするのが基本だと理解する必要がある。


スプリング、プリロード量の求め方・計算式
 
 
そして、このプリロード量の最適値は、オートバイとライダーが同じなら、ほぼ同じ値でバランスが取れるので、尚更、注意が必要だ。
 
  
トラ君の フロントスプリングの交換(2) 1
  左がスプリングを交換してプリロード調整したフロントフォーク、 スプリングを10.4mm縮めた状態に
  調整してプリロード量は 8.2 kgf になっている / Front fork preloaded by replacing the spring on
  the left, preload amount is 8.2 kgf by adjusting the spring reduced by 10.4mm

 
  
トライアンフ君との場合、プリロード量 (スプリングレート × 初期縮み量)が 8.2 kgf の時に会話が弾む事が過去のセッティングで分かっていたので、その値に合わせる事にする。

交換後のスプリングレートは 0.79 kgf/mm だから、スプリングが伸びきりの状態から10.4 mmだけ縮められる様に イニシャルアジャスターを調整して組み上げた。そして、アジャスターの調整位置(突き出し量)を左右で同じに合わせて、その値を基準にセッティングを進めていけば、比較的簡単に正確なセッティングが出来る。

で、スペーサー製作の段階から気になっていた オイルレベル変更作業の可否は、組み上げた状態でチェックしてみれば、新作の全長 45 mmスペーサーでもどうにかオイルレベルの調整が可能だと判り、先ずは一安心だ??

残る作業は大した事は無いので、今晩の作業はフォーク単体組み上げで終了にしよう。
一番時間が掛かる作業は、実際に走行を繰り返しながら、最適な調整・バランスが実現するように何度も細かな調整を繰り返す事だ。
それとも、このスプリングとの相性は悪い! と判断して、さっさと別なスプリングになるかも知れない。 それ程、フロントサスペンションのセッティングは難しい。





『 最も大切な 乗車時車高の調整 』  The most important work is to adjust
                      the height to be the same as before


「オイルレベルの調整」とか「プリロード量を同じにする」など、フロントスプリングの交換作業で多くのサスペンション専門店でさえ無視している大切な事を書いたが、それら以上に一番大切な事が“ 乗車時(1G'時)車高を同じにする ”だ。

なぜかと言えば、乗車時車高の値がサスペンション セッティングの基本中の基本で、スプリングを交換すると必ず変化してしまうこの値を交換前と同じにしないと、スプリング交換の効果以前に サスペンションの性格が変わってしまうからだ。スプリング変更の効果なのか?車高変更の効果なのか? はっきりしない効果ならスプリング交換をする意味は無い。
 
トラ君の フロントスプリングの交換(2) 2
  乗車時(1G'時)のフロントフォークの縮み量をフォークパイプ上のストロークマーカーで計測
  The amount of shrinking of the front fork at the time of boarding (1G') is measured by the
  stroke marker on the fork pipe.  

 
 
フロントフォークを組み上げて、走る(試走) のは夜と決めていたので、夕方過ぎから作業を開始。 と言うわけで、乗車時車高を 106mm に調整が終わったところ。
倒立フォークの場合の車高の測定は、インナーチューブに装着したストロークマーカーの位置を測るだけではダメで、必ず アッパーヨーク(トップブラケット) からフォークが突き出ている量を差し引かなければならない。


トラ君の フロントスプリングの交換(2) 3
 倒立式フロントサスペンションのフロント車高は、インナーチューブ部で計測した値からフロントフォーク
 が上ヨークから突き出している値を差し引いて求める
 The front height of the inverted front suspension is measured at the inner tube by removing the
 value that the front fork protules from the upper yoke.

 
 
乗車時(1G'時)状態でのフロントフォーク上のマーカー位置で 112 mm で、フォークの突き出し量が 6mm だから、差し引き 丁度 106mm, だ。これで、ターン開始時、ターンイン時に車両が見せる挙動、前後バランスは スプリング交換前と基本的には同じになる筈だ。 もちろん、動的なバランスで挙動が変わるから、そこから 車高の再調整も必要になるけど、一番初めに静的バランスを取るのが基本だから、こういう調整はとても大事になる。






『 いよいよ、試乗も間近 』 Test ride is coming soon

フロントフォークの整列取りを行ない、上下ヨークのフォーク固定ボルトは過去に最もバランスの良かった締め付けトルクで固定して、最後は ホイールを固定するアクスルシャフトが貫通する インナーチューブブラケット部の左右平行取りを行なって、アクスルシャフト固定ボルトを締め付けて完了だ。


トラ君の フロントスプリングの交換(2) 4
  フロントフォークの整列取り作業 / Alignment work of the front fork
 
 
きっと、経験上、今晩は気持ち良く走れる筈だ。
思い入れは強いし、頭も手間も丁寧に充分にかけたから、ドキドキしながら初デートみたいなものだ。 間違っても、良い面しか目には入って来ない。

でも、大変なのは その後からの方だ。
色んな癖や、意外な動作、えっ、そんな事を言うの?? ってなるのが人の世の(?) の常。
頭を使って、分析して、より良いバランスを求めてセッティングを繰り返す毎日がやって来るのは間違い無い。

トラ君、 せめて、今晩だけは 良い思い出を残そうね。






『 新スプリングとの初デート、結果報告!』  The test ride results with the
                           new spring


予想以上に気を遣わずに一緒にいられて、自然に話も出来たので、まあまあの感触でした。
ちょっと気が強いところもあって、少しモノをはっきりと言う所は嫌いでないけど、もう少しだけマイルドになってくれたらな! と思ってしまったので、やはり、スプリングレートは もう一段階下げて、0:72 〜 0.75 Kgf/mm 前後がいいなと思う。 でも、それは無いものねだりだ。

それと、彼女、椅子にすわる時、ちょっとドスンと座る癖があった。つまり ノーブレーキで切り返してターンに進入する時、意外に早めのリバウンド感があるけど、これは フォークオイルを 5〜8cc 程抜けば良くなる筈だし、きっとスマートに座ってくれるだろう。

前後車高バランスはほぼ問題無く、前後タイヤの動きは目立ったズレはない。
一緒に歩く時、声を掛けなくても、歩く始めが自然にシンクロしている、悪くない。 でも、でも、残り一分山だった筈のタイヤ、デートしている最中に、0分山以下になってしまっていた。


トラ君の フロントスプリングの交換(2) 5
 タイヤの摩耗限界を超えた為、試乗は終了 / Test ride ended because tire wear limit was exceeded
 
 
これではいけない。 正確な評価なんて、正しく彼女を知る事は出来ない。穴の空いた靴下でデートに誘ってしまった後味の悪さだ。
さあ、明日は 新品タイヤで用意している交換用ホイールに交換しなくては。 そして、明後日は イベントへ 一緒に連れて行ってあげようか。





『 マナー改善へ、シリンジ登場? 』 Oil-removing to improve rebound feeling

昨夜の 新しい フロントスプリングとの初試走 (初デート、夜に?) の印象で、気が強いのは嫌いじゃあないけど、椅子にドスンと座る様なリバウンド感は少し気になっていたので、改めて今の仕様の フロントサスペンションの全ストローク量を確認してみた。

すると、無荷重時(0G時) の車高が 137mm で、フルストローク時の車高・残ストロークは、高荷重旋回時が 47mm で、一定条件下でのフル制動時 (長い名称になるので、僕は略して、むりやり残ストローク) では 41mm の車高だから、全ストローク量は 91〜97mm の計算だ。
過去の経験から、平滑な舗装路面での付き合いで、120/70 17インチの前輪なら、全ストローク量は 100mm で充分で、それ以上に大きいと、動きが鈍くなる他に、限界時にトレール量が安定限界値以下になってコントロールが難しくなると分かっているけど、今の状態は明らかに少な過ぎる。
だから、ちょっと マナーが悪かったのか。 そこで、シリンジを使って、フォークオイルを 8cc 抜いた。


トラ君の フロントスプリングの交換(2) 5
 リバウンド感を弱める為のフォークオイル抜き / Fork oil removal work to weaken rebound feeling
 
 
さあさあ、これで、作法が良くなるかな?





『 タイヤ交換して、一旦完了! 』  Tire replacement and alignment
                      adjustment work

終わってしまった前後タイヤの交換と、改めてのフロントフォークの整列取り、そして 前後タイヤの前後整列取りも終わった。


トラ君の フロントスプリングの交換(2) 6
 前後タイヤ交換に合わせて、フロントフォークの整列取り作業を行ない、その後タイヤの前後整列取り作業
 In according with the front and rear tire replacement, perform the alignment work of the front
 fork, then the front and rear alignment work of the tire


 
街を一緒に歩いて見せびらかすだけの彼女なら、多少 姿勢が悪かったり歩き方がちょっと変わっていたってあまり気にはしない。 でも、とことん持っている能力を発揮している時の躍動感が見たい付き合い方なので、背筋から骨盤まできちんと整体バランスが取れてなくちゃ、付き合う僕の方が怖い。

これで、左右の旋回バランスに大きな問題は出ない筈だ。
さあ、今夜もデートに行きたくなった。けど、明日はイベント開催が待っている。
荷物のパッキングもあるから、ハイオク1000円分の食事だけ連れて行ってあげる事にしようか。



< What is on this page >
I changed the front spring, adjusted the suspension stroke amount, pre-load amount, and the height of the front at the time of riding to the same as before the exchange, and the result of test ride was a good impression.
However, the test drive exceeded the wear limit of the tire, so I changed the front and rear tires, adjusted the alignment of the front fork and the tires, and pulled out 8cc of the front fork oil to solve the rebound feeling I felt during the test ride.


< 解説文章と画像 :小林 裕之
< texts and images : Hiroyuki Kobayashi >



【 妖怪ガレージ 日誌】より
http://gra-npo.org/policy/yokai_column/list_youkai_column.html#setting




 * * * *  前ページに、交換するスプリング仕様を掲載しています  * * * *
The contents of the previous page is "Intrduction of the spring to be replaced".


わからない用語は、ページ下段の【用語の解説辞典】で確認できます
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 <Q&A>スプリング の レート について
        FAQ,  About Setting the Spring Rate
    ご自身のオートバイの操縦性や安定性を良くするために、
    スプリングに注目している方からの「どこまでレートを下げて
    もいいのか悩んでいます」質問と回答です







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