最初にリアをスタンドで固定し、次にフロントをスタンドでジャッキアップ。
要望の作業作業の中にはフロントフォークの整備も入っていたので、ブレーキキャリパーの取外し、フロントホイールの取り外しに続いてフrントフェンダーも取り外す。フロントフォークの整備を行なう時間が残るかどうかは、全てオーナーさんの作業に対する理解と進捗度次第だ。
2. タイヤの取り外し
オートバイのタイヤ交換の作業自体は自転車のそれと大きくは変わらない。ただ、タイヤのビード(通称:耳)をホイールから外す(通称:落とす)ための工具と、数本のタイヤレバーとホイールのリムを守る専用プロテクター、そして経験を積めば女性でも行なっている作業だ。
で、妖怪ガレージで勧める作業、ディスクローター外しから
【 チェックポイント! 】
一般的には行なわれない作業項目、でも、ディスクローター(板)を外してやれば オートバイとの会話も進み、掃除も楽になるし、何よりも タイヤ交換作業中に誤って歪ませてしまう事故も防げるから 一挙三徳だ。実際に、プロが専用設備で行なっている場合でも、ディスクローターを歪ませている例はある。でも、ローター自体の剛性が高いので見た目には判別できない程の歪しか残らず抗議も難しい。でも、その僅かな歪が恐いのです。
では、続いてタイヤのビード落とし作業
ビードブレイカーという器具を使って、タイヤとホイールが密着している部分(ビード部)を力づくで分離する作業、今や一般的になったチューブレスタイヤには必須の作業です。
タイヤのビード部とホイールとの密着を解き放った後は、自転車のタイヤ交換などと同じ手順、ホイールからタイヤレバーとリムプロテクター、そして体力を使ってタイヤを取り外すだけです。
3. ホイールのクリーニング
ホイールのクリーニングと言っても、妖怪ガレージ作業の場合、外から見える場所を磨くのではなく、タイヤを外した時にしか出来ないクリーニング作業を大切にしている。それは、タイヤのビード部分を密着させて、タイヤの持っている能力を正しく発揮させる為にある、ホイールのリム部の内側の部分だ。
【 チェックポイント! 】
この部分にはゴムやビードワックスの“かす”など様々な付着物や塗装のはがれや錆が必ずあるので、タイヤを外した時には付着物を綺麗に取り去り、塗装のはがれや錆の部分も滑らかに整えておくのだ。 もし、クリーニングを行なわないままタイヤを組み込んでも急にエア漏れなどの症状が発生する訳ではない。でも、クリーニングをしないまま組むと必ず水の侵入を許し、塗装のはがれやホイールのリム部内側に錆の拡大を許してまって、いづれエア漏れも起こしやすくなる。 という以前に、タイヤが正しい位置に正しく収まっていない事の方が、タイヤに正しく働いてもらうにはやってはいけない事だ。
実際にやって見るとはっきり分かるが、結構汚れているものだ。このオーナーの場合も前回の交換時にクリーニングを行なっているけど、それでも汚れ落としの快感を味わいたいのか、積極的にクリーニングを行なった。
最初は、細い真鍮製のワイヤーブラシで簡単にクリーニングをして、仕上げはスポンジ研磨材(磨きスポンジとも言って、平面から曲面まで、色々な番手・目の細かさが揃っている)だ。
4. タイヤの組み込み
ホイールにタイヤを組み込む作業が一番ダイナミックで、一番大切な作業の様に見えてしまうけど、実際にはそうでもない。タイヤの回転方向を間違えず、タイヤにマーキングされた“軽点マーク”(一般的には黄色い小さな丸印)をホイールで最も重くなるバルブ位置に合わせ、組み込み時にビード部を傷つけない為のビードワックスを塗って、タイヤレバーを使って組むだけだ。ディスtクローターを外しておいて、エア入れでビード部とリムとの密着さえ気をつければ、誰がやっても安全上の支障が出るミスはほぼ無いので、この作業を整備工場に依頼しても、オーナー自身が行なっても、オートバイの寿命に差が生まれる事はない。大切な事は、タイヤ組み込み以外にある。
5. ボルトのクリーニング
「 ボルトは消耗品 」と言ったら、多くの人は驚くか、それとも 知っていても無視するかのどちらかでしょう。 実際、オートバイの部品の内で、一番早く損耗して寿命が来る金属部品は ボルトです。その為、オートバイの寿命はそのオートバイに使われている ボルト の劣化・消耗度によって決まるのだ。
【 チェックポイント! 】
「 外さなかったら痛まないのでは?」という考えは一見正しく見えるけど、実際には ボルトは経年変化によって徐々に劣化が進み、実際に使用する距離が長ければ長い程に ボルト が必ず痛んでいるもの。だから、ボルトを外せる機会には積極的に外して“健康診断”、回して外す時に変な重さやひっかかりは無いかを確認して、外したら 目視確認とクリーニングをしてやれば、結果、オートバイの寿命は伸びるものです。
オートバイのボルトを正しく外せれば、オートバイはほぼ完全に分解できる。
だから、ボルトの管理と締付けトルクの管理で、オートバイは大きく変化する。
今回のクリーニングでは 荒目の鉄製ワイヤーブラシでのクリーニングでした。
6. ハブダンパーの交換
タイヤはゴム製部品、ゴム製部品は金属よりも摩耗しやすくて、熱や紫外線、薬品・薬剤などによる劣化も金属よりずっと速い。だから、ゴム製部品はタイヤと同じ様に定期的に交換する必要がある。だから、タイヤ交換の時にリアホイールに備わっているゴム製品・「ハブ ダンパー」も必ず交換するべき部品だ。
ハブ ダンパーの役割は、エンジンからチェーンを伝わってきた力をリアホイールに優しく伝える為の部品であり、アクセルを戻した時にリアタイヤにエンジンブレーキを優しく働かせる為の部品だ。チェーンから伝わってきた力はリアのスプロケット(チェーン用歯車)を通してリアホイールに直接に伝わっていると誤解している人は多いがそれは違う。リア スプロケットは完全にリアホイールから離れて浮いていて、ホイールとの間に入って全ての力を優しく伝達しているのがハブ ダンパーだ。だから、タイヤ 1本を使い切った頃にはかなり疲れ・消耗し痩せて硬化する部品だ。リアタイヤのグリップを最適に保ち、チェーンの摩耗を防ぎ、タイヤも長持ちさせたかったら、ハブ ダンパーの交換は必須です。
7. オイルシールとベアリングの点検
ここからが“妖怪ガレージ”の本領でしょう。
ボルトが金属部品で一番早く劣化・損耗すると書いたが、それよりもずっと早く劣化・損耗する部品が“ゴム製部品”と“ オイル製品 ”。 金属部品よりも劣化しやすくて寿命が短い事は多くの人が分かっていても、決してゴム製部品やオイル製品をケアしないので、オートバイの性能と寿命がどんどんと短くなっている。特に、一般的なタイヤ交換作業によって、そのゴム製部品とオイル製品の劣化が一気に進められている事は覚えておくべきだろう。
注意すべき箇所は、ホイールの中心部、シャフト(軸)が通っている部分にある ゴム製部品とオイル製品だ。
中央部のドーナツ状の黒い部品が「オイルシール」(またはダストシール)で、その内側中央の金属部品が「ベアリング」といって一番大きな力を受けながら回転する動きを支える大切な部品。この「ベアリング」は精密な金属部品だから水や埃、泥が入る大変なので、「オイルシール」が汚れた外界と遮断して、その上、「ベアリング」に封入してあるオイルが外に漏れない様にしている働き者だ。
【 チェックポイント! 】
そんな大切な部品達をケアするのに最適なのは タイヤ交換時。だから、「オイルシール」の一番中央部で薄く尖った箇所・リップ部(赤の矢印部)を指で軽く触り、その弾力や張り、柔軟性確認の“健康診断”は必須の作業。そして、「ベアリング」の中心部・内転輪(緑の矢印部)を指で回転させて重さ・摺動抵抗の確認する“健康診断”はとても大切だ。
実際、この部分の昔から変わらず、常に汚れや水と対峙しているので最も劣化が速く、新車数か月で リップと接触している金属部品(カラー)は接触部が摩耗し、同様にリップ部も摩耗してしまうので、本来なら タイヤ交換以前に、走行 5000q以内にケアをすべき箇所の一つだ。
オーナーさんには、別の車体のオイルシールとベアリングと比較してもらって、現状の劣化度や状態を確認してもらいました。
8. ホイールのオイル交換
【 チェックポイント! 】
“ホイールのオイル交換”と言っても、ベテランで物知りライダーほどに面喰らう言葉でしょうし、整備工場でさえ行なわれていない事ですからそれも当然でしょう。
しかし、ホイールのオイル交換はとても大切です。
オイルと言っているのは、ゴム製のオイルシール(ダストシール)の内側に塗布してあるグリスの事で、新車組み立て時には最低必要量塗布してあるのですが、オイル(グリス)は潤滑の為だけにあるのではなく、汚れを吸着して、内部のベアリングの健康を保つ為にあるのですが、汚れるのも早く揮発成分を含む事から本来の潤滑性能を早期に失うものです。しかも、設計上最も水や埃が混入しやすく、実際にオイルシールとカラーが早期に損耗する箇所です。ですから、タイヤ交換の度にはオイルシール内側に残っているグリスを拭き取り、新しいグリスをたっぷりとシール内側に充填させ、更に オイルシール表面にも薄く塗布してゴム製品の弾力性が続く処置が大切なのです。
9. チェーンの最適遊び調整 と 前後タイヤ整列
タイヤ交換作業をオーナーさんの作業主導で適切に行なった関係で、チェーンの最適遊び調整については確認はできませんでした。ただ、以前、この車両で最適な時の スイングアームの前後中間部でその下端面から下側チェーンの上面までの距離を測っており、現在の状態でその値が変わっているかを確認するだけだから、それはオーナーさんに宿題として持って帰ってもらいました。
また、前後タイヤの整列については、前回の作業時に専用スケールを使って調整しているので、仮に チェーン調整の必要が無ければ現状のままで調整の必要は無く、チェーン調整をした時だけ、左側のアジャスターの調整角と同じ量だけ右側のアジャスターも調整すればほぼ整列は崩れない。
10. その他、「 アクスルシャフトを叩いてはいけない !」
妖怪ガレージで自分自身の車両の整備では気付かない事でも、こうして他の方の車両整備の機会を得られて、その状態をオーナーさんに説明をしたり意見を聞いたりすると、今まで見過ごしてきた大切な事を気付かせてくれる事が多くあります。
今回、得られた事は ホイールの中心部を左右に貫通して車体に固定している軸・アクスルシャフトの整備方法についてでした。
従来から言ってきた事は、アクスルシャフトにグリスを塗布するのは構わないけど、モリブデングリスは 使ってはオートバイを壊してしまうという事だけでした。その理由は、モリブデングリスには細かな金属鉱物系の粒が入っているので、アクスルシャフトに塗布するとオイルシールのゴムの損耗が一気に進むからです。そして、今回はもう一つ 注意すべき事が増えたのです。
それは、シャフトは叩いてはいけないという事です。
【 チェックポイント! 】
アクスルシャフトを抜く時や、改めてアクスルシャフトを挿入する時、シャフトの端部をハンマーで叩く作業風景はプロの現場でも良く見られるもので、実際、今回の車両のリアのアクスルシャフトを挿入する際には手の力だけではスムーズに入り難い場面もあり、オーナーさんの「叩いていいですか?」の質問で理不尽な整備作業が蔓延している事に気付かされたのです。
ホイールの回転の車重や路面からの衝撃を支えている大切な部品がホイール中心部に組み込まれたベアリングです。過酷な環境の中で高い性能を発揮する為に、ベアリングはとても高い精度で精緻に作られた部品です。そして、そのベアリングと直接接するアクスルシャフトは、その精密な部品と最適な関係で接する為に高い精度で作られた部品です。
仮に、ベアリングが正しく組み込まれて、本来の位置で正しく働いているならば、そしてシャフトに曲がりや破損が無いならば、アクスルシャフトは手の力だけで抜き差しが出来るものですし、そういう状態で無いとベアリングが本来の状態で働いていない事を示しているのです。
それなのに、特にリアホイールの場合にはホイール自体に 2個のベアリングが組み込まれ、ホイールから浮いた状態の スプロケット部(ハブ)に組み込まれた 1個のベアリングで合計 3個もあるので、時には 抜き差しが難しい時もあります。まして、ハブダンパーが損耗していると ハブ側のベアリングの位置がセンターからずれやすいので更に難しい時もあるでしょう。それが現実です。
しかし、シャフトを叩くという行為はベアリングに想定外の力を想定していない方向から加える事であり、その行為がベアリング内部の歪みや組み込み位置のずれを生み、ベアリングが本来の働きが得られ難くなる事に繋がる上に、シャフトの変形も招くので、もし、あなたのオートバイのシャフトを叩いて作業する人が居れば、その人はあなたのオートバイの損耗を速めていると理解する必要があるのです。
ホイール内部のベアリングの損耗や組み付け位置を確認したい場合、自身でホイールを外せる人ならば、タイヤ&ホイールを車体から外した状態で、シャフトを抜き差しして引っ掛かりが無ければ大丈夫ですし、少しでも引っ掛かりを感じる場合には内部のベアリングなどの組み付けかシャフトが歪んでいる事になります。
実際、オーナーさんのリアホイールでも試してみましたが、残念な事に引っ掛かり感があり、少し破損・歪みが生まれていました。修理方法は、ベアリングの交換になりますが、特に 組み入れ時には 圧入圧力を適切にして正しい位置に正確に組み込む様に注意する必要があり、シャフトをガイド役に併用できれば一層正確に行なえます。
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『 最後に 』
ガレージ持ち込み以前に、前後ブレーキキャリパーの清掃と潤滑はオーナーさん自身の手で行なわれていましたが、ケアできる時はいつでも行なうべき箇所なので、遠慮なく 私流のケアを加えておきました。そんな ブレーキキャリパーの整備による変化も含めて、オーナーさんからの「感想文」も 是非 ご覧ください。
ともあれ、今回は タイヤ交換作業を通じてオートバイ全体のケア作業を行なってみて、一般の多くの整備工場ではタイヤ交換作業時に行なうべき作業が丁寧に行なわれていない現状に気付かされたので、このリポートの冒頭でも述べた様に、【 タイヤ交換の常識 の 非常識 】(仮題)のタイトルでコラムを書く必要を強く感じています。
いつになるかは約束できませんが、今回の記事の事で質問がある人には、必ずすぐに回答する事は約束します。