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2022年 3月27日 開催
オートバイとライダーのための“クリニック”

オートバイとライダーのための“クリニック”では、オートバイに関する様々な不安や疑問と悩みを、一人ひとりの要望に合わせて、適切な診断とアドバイスでサポートしています。
今回は、サスペンションのセッティングについて相談を受けましたので、内容別にクリニックの様子を報告します。

The clinic for motorcycles and riders is a special event to respond to the worries and needs of each recipient." This time, it was a request regarding the suspension setting, so I will report it by content.



  車高バランスの調整は、とっても大切
  
  Ride Heibht Adjustment is Important




概要  Summary

今回は、車両の操縦性に悩みがあり、積極的に理論を理解しながら改善を進めて、“クリニック”も数度受診された方への対処内容を紹介します。既に、リササスペンションのスプリングレート変更や適正車高調整、適正ダンピング調整、適正チェーン調整と進めて、調整(セッティング)の基礎となるリア周りは一段落した後、フロント周りの改善に取り組んでいらっしゃる様子で、今回はフロントスプリングのレート変更をされた後の受診でした。

その操縦性改善のために“クリニック”で行なった確認や調整作業の内容を、説明に使用した資料を交えて、以下の行なった順で紹介します。

We will introduce the confirmation and adjustment work performed at this “clinic” with the materials used for explanation. The person who visited the "clinic" was enthusiastic about improving the maneuverability of the motorcycle, and this time it was just after changing the rate of the front spring.


 1. 前後の車高バランス調整 Front and Rear Ride Height Balance Adjustment
 2. ストローク時の車高確認 Check Ride Height when Stroked
 3. スプリングレートについて About Spring Rate
 4. プリロード量について About Preload Amount
 5. その他(おまけ) Others(Bonus)
 6. 最後に Last of all





2. ストローク時の車高確認  Check Ride Height when Stroked

前後の車高バランス調整をすれば終わり、ではありません。前後車高バランス調整は、1G’時車高と言ってライダーがオートバイに乗車した状態で、加速や減速を一切行わない状態での基本となる調整ですから、ここから、加速や減速、旋回など実際の走行状態に合わせた調整がようやく行なえるのです。そして、実際の走行時には、フロントサスペンションにかかる荷重の変化によって、サスペンションがストローク(伸縮)しますので、走行荷重でストロークをさせた時の状態を確認して、確認した結果に合わせて調整を行なう事になります。

It is not the end if you adjust the height balance of the front and rear. Front and rear vehicle height balance adjustment is the basic adjustment of the ride height at 1G' when the rider is in the motorcycle and does not accelerate or decelerate at all.
During actual riding, the suspension strokes according to changes in the load applied to the front suspension, so adjustments are made according to the results of checking the condition of the suspension when it strokes under the riding load
.

トレール量、フロントサスペンションのストロークとの関係
 

一般的なフロントサスペンション(テレスコピック形式)で、ストロークした時のフロント車高の確認や調整が必要な理由を簡潔に説明します。

上図で解説している通り、オートバイは走行状態によってフロントサスペンションへの荷重が変化して、その変化によってフロントサスペンションがストローク(伸縮)してフロント車高も変化します。そして、フロント車高の変化に伴って、フロントタイヤの【トレール量】も変化します。トレール量とは、フロントタイヤの路面接地面の中心と、ステアリング回転軸が路面と交わる点を、横方向から見た時の距離で、「フロントタイヤの方向安定性に大きく影響する値」 です。
   

フロントタイヤとトレール量


ここまでの説明は、興味のある人ならある程度知っている事だと思いますが、【トレール量】の本質を充分に伝えている説明だとは言えません。その理由は、バンク走行時に【トレール量】の変化が与える影響を説明していないからです。そのバンク走行時には、前後のタイヤ共に、旋回する力の源となる【旋回モーメント】(回転モーメント)が生まれますが、その【旋回モーメント】【トレール量】の変化によってどう影響を受けるのか、下の図から理解できるでしょうか。
   
旋回モーメント、前輪タイヤに働く力
  
詳しい解説は別途コラムで解説します(予定).。ですから、ここでは、【トレール量】が小さくなり過ぎると【旋回モーメント】がより強く働いて、フロントタイヤが必要以上に旋回方向内側へと巻き込む力を受ける原因となる、とだけ覚えてください。

つまり、特にバンク走行時、ストロークによってフロント車高が低くなり過ぎる状態があると、フロントタイヤがグリップを失う原因となるのです。逆に、ストロークしてもフロント車高が充分に低くならないと、【旋回モーメント】が充分に働かず、旋回し難い、曲がり難い特性になるのです。その為。フロントフォークの分解整備やスプリングなど内部部品を交換した時は、確認走行でストローク時のフロント車高を計測して、特にフルストローク(フルボトム)時のフロント車高(残ストロークとも呼びます)を分解整備前と同じ値に調整する事が欠かせない大切な作業です。

そして、今回の "クリニック" を受診した方は、フロントスプリングのスプリングレートを交換しているので、フルストローク(フルボトム)に到達する以前、【中速・中荷重域】でのフロント車高が適切なのか確認する必要もあります(詳しい解説は別途コラムで掲載予定)。
この【中速・中荷重域】での確認方法については『感想文』でも説明していますので、興味のある方はご覧ください。 【中速・中荷重域】での確認には、ライダーの運転技術と感性の高さが必要になる為、先ず【中速・中荷重域】確認用走行コースの走行を繰り返して、新しい特性になったフロントサスペンションとの会話を深めてもらう事にしました。
  
  

【 安定限界トレール量について 】 Stable-limit Trail amount

トレール量が大き過ぎると 旋回モーメントが充分に働かないので旋回時に曲がりにくく、逆にトレール量が小さくなり過ぎると旋回モーメントが大きくなり過ぎて、タイヤがグリップを失う事に繋がりますので、トレール量、つまりフロント車高は走行条件に応じて、最適な値になる調整が最適な操縦性と安定性を備えた車両へのセットアップに欠かせません。そして、このグリップを失う原因となるトレール量の事を【安定限界トレール量】と呼び、そのイメージは下図の通りです。
   
安定限界トレール量、そのイメージ図

また、【安定限界トレール量】という言葉を聞くと、「危ない速度では走らないし、無理なバンクもさせないので関係ない」と思う人も多いでしょうが、それは誤りです。【安定限界トレール量】は、速度やバンク角、車両に関係無く、オートバイに乗っている限りは、全てのライダーが常に直面している課題の一つです。例えば、極低速走行時、フロントブレーキをかけ過ぎた場合にも、簡単にこの限界領域を超えて、瞬間的に、フロントタイヤのグリップ力とコントロールを失った経験がある人は少なくないでしょうが、それも【安定限界トレール領域】を超えてしまった経験だと言えます。

The amount of "trail," which greatly affects the directional stability of the front tires, varies greatly depending on the movement of the front suspension while riding. Depending on the rider's size, weight, load, and riding conditions, the amount of trail can be less than required to ensure directional stability. It is important to adjust the front ride height at the full bottom of the front suspension with the amount of fork oil to ensure that the amount of trail is not less than the stability limit trail area while still maintaining turning ability.

 
【 注意すべき点 】 Things to Note 

サスペンションの判断は、「硬い」とか「柔らかい」では間違いです

サスペンションの役割は、車体にかかった荷重の大きさに応じて、ホイール(タイヤ)を主に上下方向に動かす(動く)ことです。そして、ホイール(タイヤ)が移動した位置によってオートバイのグリップ性能や旋回性能が変わってしまうので、どんな場合でもタイヤとオートバイの性能を適切に発揮させる為に、走行状況に応じた適切な移動位置(ストローク位置)になる様にするのが、調整(セッティング)の目的です。
そして、この移動位置(ストローク位置)を管理する大切な役割を任されているのがスプリングで、サスペンションの性能はスプリングで決まると言っても過言ではありません。当然、ダンパーやプリロードの変更でもサスペンションの感触が「硬い」とか「柔らかい」とか変化はしますが、ダンパーやプリロードの役割はスプリングを助ける補佐役です。ダンパーなどを調整した結果、感触が変わった事で調整の良否を判断するのは誤りで、常に、ホイール(タイヤ)の移動位置が適正か否かでサスペンション調整の良否判断をする事が基本です。

The role of the suspension is to stroke the wheel up and down according to the driving situation. And since the grip force and turning characteristics of the tire change depending on the position of the wheel / tire moved in the vertical direction, the purpose of the suspension setting is to adjust to the optimum moving position.
And since the spring is the most important component that determines this moving position, suspension performance is greatly affected by the spring, and changing the spring to suit the rider and application is the basis of suspension setting.






担当講師:小林 裕之
  
Instructor : Hiroyuki Kobayashi






* * *  次ページでは 『 スプリングレートについて 』の報告です * * *
The theme on the next page is "About Spring Rate".

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