このエントリーをはてなブックマークに追加


オートバイ基本講座「心」のページへ移動します オートバイ基本講座「技」のページへ移動します オートバイ基本講座「体」のページへ移動します オートバイ基本講座「バイク」のページへ移動します

安定限界トレール量について、セミナーでの解析報告



安定限界トレール量の
“セミナー”解析

Analysis of Stability Limit Trail


オートバイの
常識と非常識
  
Common
Sense
& Insane

殆どの オートバイに備わっている「トレール量」は、走行状況に応じて変化して操縦安定性を高めていますが、状況によっては「安定限界トレール量」を下回り、不安定な挙動でライダーに恐怖を与え、時には転倒の原因にもなります。「安定限界トレール量」を正しく知り、適切な調整と管理が大切です。
The "trail amount" provided on most motorcycles changes according to the riding conditions to improve steering stability, but depending on the situation, it may be less than the "stability limit trail amount", causing unstable behavior and frightening the rider. and sometimes cause falls. It is important to know the "stability limit trail amount" correctly, and to adjust and manage it appropriately.



概要  Summary

2022年 9月3日に開催した『オートバイ、なんでも “セミナー”』の報告です。
今回は、ちょっとした話の流れから、本当は多くの人が悩んでいる【 安定限界トレール量 】についての話で進みました。そして、当日、参加した人と一緒になって、解析を一つひとつ進めていったのですが、分かりやすく解析が出来なかった事が「宿題」として残りました。

このリポートでは、【 安定限界トレール量 】について簡単な説明と、残っていた「宿題」の解析を行なっていますので、ご覧ください。









【 安定限界トレール量 】って、何?  
What is the "Stability Limit Trail Amount"?



この 言葉は、教習所でも教えられていないし、雑誌や二輪Webメディアでも使われていない言葉なので、殆どのライダーは知らない言葉だけど、多くがこれに関して恐い怖い体験をした事のある筈です。 例えば、ゆっくり走っている時に、フロントブレーキをかけ過ぎて安定を失い転倒しそうになった体験は1〜2回はあるでしょう。 それ以外にも、一般道を走行している時に思わぬ路面の大きな凸凹を通過した時や、高速道路などの橋脚部のジョイント部をコーナリングしながら追加した時など、前輪のコントロールを瞬間的に失っているような体験をした事のある人もいるでしょう。 そんな現象の多くは、前輪に備わっている「トレール(量)」という大切な要素が、瞬間的に “安定限界トレール量” 以下になった場合に起きているのです。

以上、ここまで読んで下さり、「安定限界トレール量」という要素がオートバイにある事を知ってもらえたならば、このリポートを書いた目的は充分に達していると思います。
次の項から、もう少し詳しい「安定限界トレール量」の簡単な解説と、“セミナー” 当日には解析できなくて「宿題」となった事への回答を報告します。






常に変化する“トレール量” 
Ever-changing Trail Amount



販売 されているオートバイの殆どは、つまり皆さんの乗っているオートバイの殆どは、「テレスコピック形式」と呼ばれるフロントサスペンションを備えています。 この形式は、比較的製造が容易で廉価な形式である事の他に、剛性が高過ぎず、人間の感性に合った操縦安定性を備えている事が広く支持されている理由です。
 
 
安定限界トレール量について、セミナーでの解析報告
 
 
例えば、上図で示した様に、走行状況に応じてフロントサスペンションが作動して、常に「トレール量」が変化している事も広く支持されている特性です。 しかし、この特性がどんな走行状況でもライダーの感性に合い、常に安全性を保つ仕組みかと問われれば、そうではないと言わざるを得ません。






問題はコーナリングの時 
The Problem Occurs when Cornering



「トレール量」の役割は、フロントタイヤの安定性を保つ事です。つまり、車体が向いている方向へフロントタイヤの向きを保つ働きがあるのです。 ただ、これは真っ直ぐに走る場合には助かるのですが、コーナリングの場面の様に、車体が向いている方向ではなく、バンクしている側へと向きを変える時には邪魔になる存在になります。 そこで、コーナリング時には向きが変わり易い様に、状況に応じて「トレール量」が小さくなる「テレスコピック形式」のサスペンションが合っているのです。


安定限界トレール量について、セミナーでの解析報告
  
  
しかし、必要以上に「トレール量」が小さくなり過ぎる状況に陥る場合もあり、それが例で挙げた怖い体験の場合の様に、どんな場合でも安全性を保つ為に、トレール量が「安定限界トレール量」以下にならない様な整備や調整が重要になるのです。






「宿題」への回答 
Answers to "Homework"




と、ここまでの報告を読んで、鋭い人であれば理解できたでしょう。 販売されているオートバイの多くは、走行状況によってトレール量が「安定限界トレール量」以下になってしまう場面があるのです。今回の“セミナー”に参加された人もご自身の車両の操縦安定性に満足できず、試行錯誤を繰り返している人だったのです。
そこで、不安定になる領域「安定限界トレール領域」は、横軸を「トレール量」に、縦軸を「方向安定性」にグラフを描くと下記のグラフで示す領域になる事を示した後、なぜ? 安定限界トレール領域では フロントタイヤの方向性が不安定になるのか?を、ホワイトボードに図を描きながら解析を進めていったのですが、理路的な解析を充分に行なえず、「宿題」が残ってしまったのです。
 
 
安定限界トレール量について、セミナーでの解析報告


ここに、
旋回時にフロントタイヤが受ける力とトレール量との関係を、わかりやすい図でまとめてみましたのでご覧下さい。フロントタイヤが路面から受けている力(抵抗力)を、作用する方向へ分解すれば、フロントタイヤを旋回側へ操舵(向きを変える)しようとする力【旋回モーメント】は「トレール量」の変化によって変化する事を示す事が分かるでしょうか。
この【旋回モーメント】は、オートバイが旋回する力の源ですが、旋回に必要な力以上に大きな力になってしまうと、フロントタイヤが方向安定性を失う原因になり、ライダーは不安感を強く感じ、時には転倒してしまう原因になるのです。 従って、「トレール量」が必要以上に小さくならない様にする事が大切なのです。
 
 
安定限界トレール量について、セミナーでの解析報告
 
 
この「安定限界トレール量」に関係する問題は、特に、旋回走行中に、フロントサスペンションがフルボトム状態近くまでストロークした場面で発生します。例えば、想定していない路面上の落下物の上を通過したり、路面の大きな凸凹を通過した場合、そして下り坂で危険回避の為の急ブレーキが必要になった場合でも比較的簡単に起きる問題です。ただ、車両の設計時からの問題であり、車輪ロックを防ぐABS(アンチロックブレーキシステム)だけで解消される問題ではなく、それが原因で転倒したとすればライダーの責任として誤って扱われるでしょう。 この現状に警鐘を鳴らし、認識を高める為の記事は機会を改めて掲載しますので、どうぞ、関心のある方はお待ちください。 そして、関心はあるし記事は待てないという方は、どうぞ、GRA宛に強い要望を送ってください。 強い要望や情熱には、必ず応えます。

なお、今回掲載した解説図から読み解けると思いますが、「安定限界トレール量」問題に対処する為には「フルボトム時車高」を管理調整する事で容易に達成できます。「フルボトム時車高」は フロントフォーク内部のエア容量の調整で行ないますが、適切な「フルボトム時車高」に調整した場合、フロントサスペンションの全ストローク量は、多くの場合、少なくなる事が確かめられるでしょう。





担当講師:小林 裕之
  
Instructor : Hiroyuki Kobayashi






わからない用語は、ページ下段の【用語の解説辞典】で確認できます
「質問」を送信される方には説明を返信しますので、利用してください



【 関連する記事、資料 / Related and Reference Articles

  <Q&A> 最適なフロントの車高は・・

FAQ. Optmum Front Ride Height is

  車高は操縦安定性を左右する最も大きな要素ですが、最適な車高の考え方や調整方法が不足しているため、誤った調整で危険な
状態の車両は少なくありません

  <Q&A> フロントタイヤが重く感じ・
Analyzing front suspension with treil
  バンクさせている時、フロントタイヤが重く感じ、アクセル操作で浮く様な体験した人へ、タイヤの適確な解析を回答じています







クリエイティブ・コモンズ・ライセンス ページ中の画像は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています
文章等は許可無く転載することを禁じます / Copyright GRA All Rights Reserved.