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フロントスプリングの
選択と確認


Front Springs
Selecting and Checking


オートバイの
常識と非常識
  
Common
Sense
& Insane

オートバイが シューズだとすれば、タイヤはソールで、サスペンションのスプリングはシューズサイズです。 しかし、殆どが大きな人に合せたサイズなので、決して良い状態ではありません。 思い通り、安全に、楽しく走る為に、スプリング(レート)を合せる必要があります。
If a motorcycle is a shoe, the tire is the sole and the suspension spring is the size of the shoe. But, most of them are sized for bigger person, so they are never right for you. Springs (rates) need to match in order for you to drive safely and enjoyably.




概要  Summary

秋晴れ の空の下、少し肌寒い秋風を感じながら『オートバイ、なんでも “クリニック”』を開催しました。

今回は、乗り難さを感じていた車両を乗り易くする為、特に サスペンションのセッティングの基本を一から学び、一つひとつ 理解しながら自身の手で様々な作業を進めている人が受診しましたので、その様子から「フロントスプリングの選定と確認」をテーマに、サスペンションにとって一番大切なスプリングレートの選択について、特に、緻密な選択と確認が必要になフロントスプリングについて、報告と解説をします。
 



  
 
 
 
 
 
 
  
  

今回の“クリニック”受診者の紹介
Introduce the Patients of this Clinic



最初に 今回の“クリニック”を受診した方が、どういう目的で受診をして、今までに行なってきた事を紹介します。

彼は、乗っている車両を乗り易くする事に情熱を傾けていて、整備作業やセッティングは自分自身で考えながらコツコツと進めている人です。そして、この“クリニック”には、主にサスペンション関係のセッティングを進めていく為に通っている人です。ただ、この“クリニック”の方針は「受診者自身が理解と実走経験を積み、より良いオートバイライフを自ら実現すること」ですから、こちらから直接手を下す事はしませんし、「こうしなさい!」という事は一切言いませんので、時間はかかりますが、オートバイの基本的な構造や運動力学的な理解は確実に進んだ方です。
そして、今までに行なってきた事は、リアサスペンションの適正プリロード調整に始まり、適正なリア車高の確認、同時に 適正なレートのリアスプリングの選択と確認、前後の車高バランスの確認と調整を行ない、途中、車体剛性バランスの適正化、適正グリップ位置の調整が入り、安定限界トレール量確保の理解、適正なフロントプリロード量の理解を進めながら、数回かけて 適正なレートのフロントスプリングを求めて交換と確認を行ない、丁度、受診 3年目の人です。
    
   フロントスプリングの選択と確認 / Front Spring_Selecting and Checking  
 
標準の スプリングレート・1.0 Kgf/mm のフロントスプリングに満足できず、0.9 Kgf/mm へ交換、次に 0.8 Kgf/mm、 0.7 Kgf/mm へと変更し、それでも満足できず、今回は シングルレート から ツインレート仕様のスプリングに挑戦して、初期レート 0.75 Kgf/mm へ交換して、適正プリロード量と安定限界トレール量の調整を済ませての “クリニック”受診となったのです。
さあ、新しいレートの フロントスプリング と 車両
と 身体との相性はどうだったでしょうか。

< What this section says >
The clinic recipient this time is a person who has visited the clinic many times to resolve the difficulty in riding a vehicle with a high load setting. He has finished changing the rear suspension spring rate, adjusting the optimum preload, adjusting the optimum rear ride height, adjusting the front ride height by balancing the front and rear ride height, and adjusting the amount of stability limit trail. Finally, it was time to select and check the front springs, and he went to see the doctor to check the suitability of the fourth front spring.

   




  
   
    

選択した スプリングの確認 
Checking Compatibility of Selected Springs

       
    

スプリングは、サスペンションで最も重要な部品で、そのスプリングレートは車両の車重とライダーの体重、主な使用速度域と主な用途で選ぶ必要があります。特に、今回の車両の様に、時には 体重100s 超えのライダーが 200q/h を超える高速走行も想定した造りになっていると、体重 70s 程のライダーが 主に 100s/h 以下、時には 雨降る市街地を走る場合には、かなりの緊張を強いられたとして不思議ではありません。

既に、リアスプリングは数度の交換と確認作業を通じて、最適と思われる仕様になっているのですが、難しいのは フロントスプリングです。操縦性と安定性に大きな影響を与え、ライダーにとって最も敏感に感じるのがフロントサスペンションですから、フロントスプリングの選択と確認作業は 、サスペンションセッティングの中で最も繊細な理解と注意が必要で、難易度が非常に高い作業です。しかし、難易度が高い作業ほど、基本的で簡単な確認作業を一つひとつ丁寧に積み重ねていく必要があります。

そこで、最初に行なったのは 『 四角4本パイロン セクション 』での確認走行です。


四角4本パイロンセクション / 90°X4 section
 
 
この走行の特徴は、特別なライディング操作をしない事です。前後ブレーキは一切使用せず、アクセル操作とバンク操作だけで正方形セクションを周回するだけなので、スプリングとオートバイとのバランスや、オートバイの“素”の状態の良し悪しを適確に判断できるのです。

走り始めた直後、前回の受診時(2022年3月)には無かった、自然で理想的な動きをフロントサスペンションがしている事に気付きました。明らかに、今回の変更したスプリングは良いマッチングをしている事は明らかでした。ただ、尋ねてみると、ライダーの意見は違うものでした。 彼は、「左旋回の方が気持ち良い」という感想でした。私の判断は、彼の感想とは異なり、「右旋回では、フロントサスペンションが良い反応をしている」でしたが、それは一切伝えませんでした。
以下に、その時の 右旋回 と 左旋回 の走行画像を紹介しますが、違いが分かるでしょうか。
 

【 左旋回 】Left Turns
フロントスプリングの選択と確認 / Front Spring_Selecting and Checking
フロントスプリングの選択と確認 / Front Spring_Selecting and Checking

【 右旋回 】Right Turns
フロントスプリングの選択と確認 / Front Spring_Selecting and Checking
フロントスプリングの選択と確認 / Front Spring_Selecting and Checking
 

これらの画像 でもはっきりと確認が出来ますが、右旋回の際には、左旋回と較べて 3度近く舵角が大きくなっている事が分かります。そして、右旋回での舵角は自然で理想に近いものです。

しかし、受診者が“右旋回でのバランスの良さ”に気付かなければ進みません。 そこで、右旋回と左旋回で、それぞれ 3周走行でのタイム測定を何度か繰り返して、走らせた感覚と測定タイムとのすり合わせをしました。 その結果、右旋回も左旋回でも、タイムは殆ど変らなかったのです。受診者にとっては、左旋回の方がずっと速く走れていて、右旋回は遅く走っている感覚だったのですが、客観的な結果は考察を深めるのにとても良い材料になります。 左旋回と右旋回とて感覚が異なる原因が オートバイにあるのか? それとも、ライダーなのか? ライダー自身に原因の所在を確かめる“きっかけ”になり、適切な判断基準になるからです。

旋回(コーナリング)走行で最も大切な事は、“舵角の入り方”です。 ライダーがオートバイに旋回を開始する合図を送った時、フロントタイヤの向きを、旋回方向へと遅れずにスムーズに変える事がフロントサスペンションの大切な役割です。そして、その役割の多くをフロントスプリングが担っています。今回、以前より適正な動きを「右旋回」で見せたので、きっと、スプリング自体の原因ではないでしょう。
 
< What this section says >
The best place for a test run to check the front springs' suitability is the 90°X4 section of the square, where the rider
drives without using the brakes. As soon as he started driving, the natural change in steering angle when turning right immediately confirmed that this was the most compatible spring so far. However, his impression was that the left turn was more comfortable.
So, we measured the time for 3 laps of right and left turning using the 90°x4 section. This meant that the right turn, which he felt was slower, was a more efficient turn, and the left turn may have been inefficient for some reason.
Therefore, I suggested a trial run on a different driving section to determine the cause of the inefficiency in turning left.



  
フロントスプリングの“適正”は、旋回直後にはっきり現れます
The suitability of the front spring can be confirmed by the change
in the steering angle immediately after turning.
スプリングの精緻な“適正”確認作業は、一般道では不可能です
It is impossible to strictly check the suitability of springs on public roads.








  
 

適正なスプリングが教える、ライディング 
Proper Riding Conveyed by Proper Springs



今回選択した スプリングは、走行を外から観察した限り、右旋回に限り“舵角の入り方”が 以前よりも理想に近づいた事は確認できました。しかし、受診者(ライダー)にとっては、左旋回の方が“良い”と感じていました。そこで、“四角4本パイロンセクション”で、右旋回と左旋回でのタイム測定を行なうと、“良い”と感じていた左旋回でのタイムは“遅い”と感じていた右旋回のタイムとほぼ同じでした。つまり、右旋回では、リスク少なく、効率良く走れている事を結果が示したのです。

そこで、右旋回と左旋回と旋回特性“舵角の入り方”が異なっている原因を探る為、下図で示した「オフセット スラローム セクション B」での走行を提案しました。 90度コーナーだけの「四角4本スラロームセクション」よりも、旋回時間を長くして、“舵角”が入る時間を長くして、旋回特性が左右で異なる事を自ら確かめてもらう事になりました。これで、旋回特性や操縦性が左右で異なる原因が、オートバイ側にあるのか或いはライダー側なのかを確かめ事も出来るでしょう。
 
 
フロントスプリングの選択と確認 / Front Spring_Selecting and Checking
  
  
このセクション の走行を繰り返した結果。受診者も、右旋回での自然な“舵角の入り方”を確認する事ができました。そして、同時に、左旋回では、自然な“舵角の入り方”を左手で抑え込んでいる事が自覚できたという結果を生みました。原因がオートバイ側に全く無いとは言えませんが、少なくとも、ライダー側の“原因”を解消する事が必要、という結論で一致できました。

そこで、“舵角の入り方”を大切に活かした走り方が必要になる様に、回転(サークル)を組み込んだ「オフセット スラローム セクション D」を提案しました。このセクション走行を繰り返す事で、習得は簡単ではありません、オートバイの自然な初期旋回“舵角の入り方”を活かした旋回を生み出す“コツ”の片鱗は見えてくるものです。
 
 
  
フロントスプリングの選択と確認 / Front Spring_Selecting and Checking   

 
 
何周か 繰り返して走行する度、左旋回の際に左手でハンドルバーを押さえる操作は減り、左右の旋回の差も少なくなり、左旋回でも「旋回開始地点」からスムーズに“舵角が入り”、スムーズに小さな旋回を描けるようになりました。今までの受診の中で、最も安定して小さな円旋回を、左右の旋回で大きな差もなく走れている事は、走らせている彼自身が一番感じている事でしょうし、それを実現させた【フロントスプリングの選択】の効果は、一生忘れられない体験でしょう。

どこでも出来る事ではありませんが、路面や環境が整っていて、安全に集中できる機会があれば、今回の様なセクション走行を行なう事で、今回体験した“コツ”を思い出させる事が出来ますし、それを繰り返す事で運転技術は確実に向上する事は間違いありません。そして、他の車両に乗り換えた時でも、体験した事を活かして、適切なセッティングを実現させる近になった事でしょう。

今回も、クリニックでは、体験した“コツ”と“舵角の入り方”の感覚を、一般道でも応用できる技術へ高める為に、走行したセクションを応用した「タイムトライアルコース」を提案して、タイム測定も行ない、走行させた感覚と測定結果を擦り合わせて、客観的な理解と実践力を高められました。 ( ※ 当日の「タイムトライアルコース」は、ページ下段の【コース図】で確認できます )
 
< What this section says >
Since the most important thing in turning is the natural change in steering angle immediately after the start of the turn, we repeated the test run in the driving section where the turning time is longer and waited for his feedback. Then, he commented, "I pushed the handlebar with my left hand when turning left," and furthermore, "I felt that I could turn comfortably when turning right. We found that his riding habits were reducing the efficiency of his left turns, so we suggested that he practice making a single turn at each cone of the section to correct his riding habits.

   


 
旋回走行で最も重視すべきは、自然な“舵角の入り方”です
The most important thing in turning is the natural change
in steering angle in the turning direction.
自然な“舵角の入り方”は、ブレーキ無し走行で確認できます
The natural steering angle change can be confirmed
in a test run without using the brake.

  
  
  
   

  




<参考解説> スプリング、選択の重要性
"reference"_ Importance of Spring Selection



サスペンションの、一番大切な目的は【タイヤをグリップを保つ事】です。タイヤのグリップと言うと、多くの人はタイヤの役割だと思うでしょうが、どんなに高いグリップ力のあるタイヤでも、サスペンションが適切でないとグリップ力は活かせずにスリップします。 逆に、例えノーマルタイヤでも、サスペンションが適切に整っていれば、タイヤが持つ能力を目一杯活かした安全な走りが可能になります。 そして何よりも大切な事は、設定が適切でないサスペンションでは、危険であると同時に、ライダーのライディングのスキルの向上は見込めず、下手になる事は確実です。

では、【適切なサスペンション設定】は何か? と問えば、多くの人は 「プリロード」や「ダンパー」設定とか、中には「車高」設定と答えるかも知れませんが、一番大切な要素は【スプリング】設定です。 リポートの文中の解説にもある様に、適切な【スプリングレート】のスプリングを選択する事が適切なサスペンションには一番重要です。その理由は、【スプリングレート】がオートバイの動きの全てを決めるからで、「プリロード」や「ダンパー」はスプリングの“補佐役”でしかありません。

その理由を、下に掲載した図を使って簡単に説明しましょう。フロントサスペンションには多くの役割が任されていますが、ここでは“舵角の入り方”、つまりフロントタイヤが旋回方向へと向きを変える仕組み・メカニズムだけに絞った解説をします。
   
  
フロントタイヤ、トレール量と旋回モーメントの解説図 / Front Suspension and Trail amount
 
 
多くの 車両で採用されている、テレスコピック形式のフロントサスペンション(上図)の場合、上図・左のライダーが乗車した【乗車状態】(1G'時状態)から、ブレーキや旋回でフロントタイヤに荷重が加わると、【中間ストローク】から【フルボトム状態】までサスペンションがストローク(伸縮)します。この時、“安定成分”として設計されている【トレール量】も同時に変化します。

この【トレール量】に注目すれば、荷重がフロントタイヤに加わわる程に小さくなる事が分かるでしょうか。ここが“舵角の入り方”に大きな影響を与える点ですから、頭に入れておいて、車体をバンクさせてコーナリング(旋回)している状態を解説した下の図を見てください。
 
 
フロントタイヤ、旋回モーメントの解説図 /The trail amount and the Turning moment elements
 
 
フロントタイヤは、赤い丸印で示した、ステアリング(ハンドル)が回転する軸が路面に交わる点を(操舵の回転中心)を中心にして、左や右へと回転して向きを変えます。ただ、タイヤが路面と接地している部分は、青い丸印で示した箇所で、赤い丸印と青の丸印が離れているので、緑色の太い矢印で示した力(旋回モーメントの素)と、二つの点の間の距離(モーメントの腕)とによって、タイヤ全体を旋回方向へと向きを変えようとする【旋回モーメント】が働きます。この【旋回モーメント】は、リアタイヤでも同様に発生していて、オートバイを旋回させる最も大きな力として働きますが、フロントタイヤの場合は別な働きも期待されています。それが“舵角の入り方”です。
 
 
フロントタイヤ、旋回モーメントの解説図 /

 
 
最初に 説明した様に、フロントタイヤにかかる荷重の大きさによってフロントサスペンションはストローク(伸縮)して、同時に【トレール量】も変化します。そして、この【トレール慮】の変化によって、フロントタイヤに働く【旋回モーメント】の大きさも変わります。つまり、【トレール量】が小さくなる程に【旋回モーメント】も大きくなり、フロントタイヤの向きを旋回方向へと変化させる事になるのです。

そして、フロントサスペンションのストローク量(伸縮量)が変化する量は、フロントスプリングのレート(ばね定数)によって全て決まりますから、旋回走行中のフロントタイヤに働く【旋回モーメント】の変化は、フロントスプリングのスプリングレートによって決まる事が判るでしょう。
ただ、注意しなくてはいけいない事は、ライダーの大小によってフロントタイヤにかかる荷重は変化する事です。つまり、体重が重い人はストローク量が大きくなり、軽い人はストローク量が小さくなる事です。
オートバイの立場で考えると、旋回中の速度や路面状況、旋回半径などに応じて、フロントタイヤに働くべき“最適な”【旋回モーメント】があり、最適な【トレール量】もあります。しかし、体重の違いによって【トレール量】の変化も影響を受けるので、ライダーの体重に合せて最適なスプリングレートのスプリングを選択する事が最適セッティングになるのです。「プリロード量」調整や「ダンパー」調整では、直接的にはストロークの変化量は制御できないので、それらはサポート役、補佐役
なのです。

ここで、この“最適な”スプリングレートについて考えてみましょう。
スプリングレートは、車両の重量とライダーの体重の他に、日常的な速度域や使用環境に合せる必要があります。スプリングレートが最適なレートより大きければ、【トレール量】変化も少なく、【旋回モーメント】も最適な値より小さくなり、旋回効率が悪くなり、曲がらないオートバイになります。逆に、スプリングレートが最適なレートより小さければ、ストローク変化量が大きくなり、【トレール量】が小さくなり過ぎて、【旋回モーメント量】が大きくなり過ぎて、フロントタイヤのグリップ力を失いやすく不安定で、最悪の場合は転倒を招く事になります。
 
  
 トレール量とフロントタイヤの方向安定性 関係図 /
 
 
< What this section says >
The need to select front springs that match the rider's weight and use is because the front suspension plays a major role in handling stability. The "amount of trail" of the front suspension varies depending on the amount of load being applied. The change in the "amount of trail" during a turn changes the magnitude of the "turning moment," the force that turns the front tires in the direction of the turn.
In other words, in order to properly control the amount of "turning moment" acting on the front tire and obtain proper handling stability, it is important to select the spring rate according to the rider's weight and the intended use.


   
 
“舵角の入り方”は、トレール量と荷重の大きさで変化します
The suitability of the front spring can be confirmed by the change
in the steering angle immediately after turning.
 
トレール量変化は、フロントスプリングのレートで決まります
The change in trail amount is determined by the rate of the front springs



 
 
  
 
 


<参考解説> 前後のスプリングの選択 
"reference"_How to Select Front and Rear Springs




リアスプリングの場合、社外製のサスペンユニットへの交換が前提になりますが、最適なレートのスプリングへの交換はさほど難しくはありません。社外製のユニットの場合、その多くが、部品の殆どが分解できる構造になっているからです。国内発売元(販売代理店)は海外メーカーから、スプリングやピストン、ダンパーロッドやダンパーシムなど、全てを部品単位で輸入して、車輛別の組立指示書に従って、それらの部品を使って組み立てて、「〇〇車用」として販売しているだけですから、スプリング(レート)の変更や、レートの変更に合せてダンパーシムの変更も依頼できるからです。
 
 
リアスプリングの選択と確認ん / Rear Springs_Selecting and Checking
 
 
最初に 選択したメーカーのサスペンションユニットには、メーカー指定の 675 LBS/inch のスプリングが組み込まれていましたが、標準装備ユニット(上図の中央下部)の 約 509 LBS/ inch (計算値)のレートのスプリングと較べて異様に高く、少なくとも 40 q/h 以下の 低荷重域ではグリップ感が充分に感じられない程でしたので、625 LBS/ inch に始まり、600 LBS/ inch 、575LBS / inch、そして 575 LBS/ inch、550 LBS/ inch のスプリングを試し、現在では スプリングのメーカーを変更して、サスペンションユニットのメーカーも変更して、575 LBS/ inch のレートに落ち着いています。
  
別な言い方をすれば、高額な社外製のリアサスペンションユニットを装着しながら、乗る人の体重や用途に合わせてスプリング(レート)を交換しなければ、オートバイ全体でのバランスを欠く事になり、そのユニットが持っている性能を適切に発揮出来ず、安全と言い切れる状態ではない事は間違いありません。更に、サスペンションユニットの発売元は、ライダーの体重と用途に応じて、その車両にとって適切なレートのスプリングとダンパーシム設定を提供すべきだと思いますが、残念ながら、充分な知識を持ち、購入時に最適なスプリングのアドバイスを行なっている販売元は無いのが現状です。
    
 
          *   *  *  *  *  *
 
一方、フロントスプリングの場合、リアスプリングの様に簡単ではありません。それは、【トレール量】【旋回モーメント】の変化と操縦安定性とのバランスをとる必要があるからです。それが、リアスプリングの仕様よりも遥かに多い仕様(レートやレート変換)のフロントスプリングが作られている理由で、実際、同じ車両でも、年次が変わる度にフロントスプリングの仕様が変更されている例は少なくない程です。それほど、フロントスプリングの仕様決定は繊細です。
 
 
フロントスプリングの選択と確認 / Front Spring_Selecting and Checking
 
 
上図は、 一般的なフロントスプリングの一例で、上から 6本目までが伸縮の際にレートが変化するツインレート仕様で、下の1本が変化しないシングルレート仕様です。そして、それらのスプリングのスプリングレート(計算値)の一覧が下図の通りです。
  

フロントスプリングの選択と確認 / Front Spring_Selecting and Checking

    

この表を 見ただけでは判断は難しいので、実際に 車両に装着した場合、荷重の大きさの変化に合せてストローク(伸縮)する量がどうなるのか、候補に挙げたスプリングをシミュレーションで比較したのが下の図(グラフ)です。全てのスプリングのプリロード(初期荷重)は 10 kgf として、乗車状態(1G'時)の 荷重域を赤い帯で示しています。


フロントスプリングの選択と確認 / Front Spring_Selecting and Checking   
 
実際の スプリング選択の作業は、基準となるスプリングで決めて試走を行ない、その試走結果から改善したい点を挙げて、それを改善できる可能性のある仕様のスプリングを、スプリング仕様一覧や シミュレーション グラフから選び出し、選択したスプリングを組み込んで試走を行ない、改善したい点を挙げる、という作業の繰り返しになります。そして、試走の際、特に重視すべき点は、【乗車状態】(1G'時状態)から【中間ストローク】の領域でのフロント(タイヤ)のマナー(方向安定性)です。その理由は二つあります。一つは最も多く使用するので影響が大きい領域である事で、二つ目は、【フルボトム状態】に近い領域になる程にフォーク内のエア(エア室)による反発力(エアスプリング成分)が強く影響して、スプリングの特性による影響が相対的に小さくなるからです。

そんな試走の際、基本となる走行パターンは、今回の "クリニック" で行なった様に ブレーキを使わない簡単な走行パターンになります。 ブレーキを使った確認走行を行なってしまうと、スプリングとの相性を正しく感知できないだけでなく、スプリングが原因のバランスの崩れがあったとしても ブレーキ操作で修正してしまう為、不適切なブレーキ操作の “癖”を無意識の内に身に付ける事に繋がるからです。また、試走する路面や周辺環境も同じにして、感性基準を揃える事にも注意を払います。そして、当然ですが、一般道では正確で適切な感知作業は行なえません。
   
 
フロントスプリングの選択と確認 / Front Spring_Selecting and Checking
 
 
< What this section says >

Choosing a rear spring is relatively easy. This is because rear springs are standardized in terms of spring rate and size, so any spring can be chosen and tested. Especially in the case of after-market external suspension units, it is easy to change springs, and damping settings can be ordered to match the changed spring rate.
However, front springs have a significant impact on handling stability and require precise work to match the rider's weight and intended use.
Even after collecting data on spring rates of many available front springs, running simulations, and repeating test runs with the springs actually installed, it is difficult to select the optimum spring for every riding situation.

  






担当講師:小林 裕之
  
Instructor : Hiroyuki Kobayashi






わからない用語は、ページ下段の【用語の解説辞典】で確認できます
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