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「車体バランス」を考えてみよう

Consider the Vehicle Balance



オートバイの
常識と非常識
  
Common
Sense
& Insane

市販車両は、走行テストと設計変更を繰り返し、車体バランスを熟成させた仕様で販売されていますが、その車体バランスを再現するには、テスト車両とは違う組立方式や、想定ライダーとの体重、想定した使用条件等の違いを考慮した整備と調整が必要です。
Commercial vehicles are sold with specifications that have matured vehicle balance through repeated running tests and design changes. However, in order to achieve that vehicle balance, it is necessary to maintain and adjust it considering the difference between the assembly method and the expected rider.




概要  Summary

セミナーは、参加した人の質問や提案をテーマに、簡単な物理法則での解析を交えて、丁寧に掘り下げて、オートバイへの理解を深める「場」を一緒に創りあげるのを目的にしています。

今回は、「リアタイヤを、ラジアルタイヤにして、ワンサイズアップさせたい」という方からの質問があり、まずはタイヤサイズについて一緒に解析を進めました。その後は、リアサスペンションの適正なプリロード調整の話から、フロントの適正な乗車時(1G'時)の車高は誰が乗っても同じになる事などに繋がるなど、話題は興味が向くままにドリフト状態で盛り上がりました。

 
 

バイアスからラジアルへの変更による影響は? / Change from Bias to Radial

タイヤサイズ変更と車体バランスへの影響は? / Effect of changing Tire Size

タイヤの賞味期限を知っていますか? / Do you know the Shell Life of Tire?

体重とリアのプリロード調整との関係は? / Weight and Rear pre-load Adjustment
フロントとリアの車高バランスは? / Front and Rear Height Balance
<補足説明> あとがき / Additional Explanation 





  
 
 
 
 
 
 
  
  

バイアスからラジアルへの変更による影響は?
Effect of Changing from Bias to Radial on Balance



セミナーに 参加した人から、「オートバイ・MT-25 のタイヤをラジアルタイヤにして、リアタイヤのサイズを変更したいのですが ・」という発言がありました。詳しく尋ねると、MT-25と姉妹車種・MT-03 はタイヤサイズは同一ながら、MT-25はバイアスタイヤで MT-03はラジアルタイヤだという事でした。


セミナー・「車体バランス」 開催リポート / Consider the Vehicle Balance
  
  
問い   標準のバイアスタイヤをラジアルタイヤに交換すると、
  どんな影響があるでしょうか?

 
 
MT-25 と MT-03 は、エンジンの排気量が異なるだけで、殆ど同じ車体だと知っていましたが、まさか MT-25 はバイアスタイヤだとは知りませんでした。ただ、殆ど同じ車体で、大きくは変わらない排気量、そしてタイヤサイズが同じならば、バイアスタイヤをラジアルタイヤへ変更しても、“車体バランス”を大きく崩す原因にはならない筈なので、ラジアルタイヤへの変更は問題無いでしょうと回答しました。
 
 
タイヤサイズ表示と構造、規格など / Tire size indication and structure
 
 
今回、「問題はないでしょう」と回答した理由の一つは、車両メーカーの走行テストチームが充分なテストを行なっている筈だからです。同じ開発時期に、ほぼ同じ車体で同じタイヤサイズで、バイアスタイヤとラジアルタイヤの両方でテストを行なっている筈ですから、姉妹車と同じサイズであれば、ラジアルタイヤに変更しても“車体バランス”は崩し難いからです。さらに、バイアスタイヤとラジアルタイヤを同じサイズで製造しているタイヤメーカーも、同サイズでのタイヤ構造変更(組換え)の需要を見込んだ設計をしている筈ですから、変更による悪い影響は少ないでしょう。
 
 

「車体バランス」を考えてみよう / Consider the Vehicle Balance

   
 
 
< What this section says >
If the tire size is the same, there are not many adverse effects from changing from bias tires to radial tires. Especially, like MT-25, if the same size radial tire is adopted in the same series vehicle, there will be little adverse effect by replacement.


   
  
   
    
    
   
  
    
  
  
 

タイヤサイズ変更と車体バランスへの影響は? 
Effect of changing Tire Size on Vehicle Balance



次に、「リアタイヤサイズを 140 から 150にしたい」という問いに応える事になりました。その変更も目的は「サイズを大きくする事で、グリップ性能が向上して安心して走れるのでは」という内容でした。 そこで、「なぜ、140サイズのタイヤが採用されていると思いますか?」と、逆に質問をしながら、140サイズのタイヤが採用されている理由を一緒に考えてみました。

140サイズのリアタイヤが採用されている理由の一つは、140サイズのリアタイヤを採用している車両は数多くあるので、どのタイヤメーカーでも売れ筋のサイズだから、車両メーカー側としては購入価格を低く抑えやすいという事です。 だから、MT-25も MT-03も 同じサイズのタイヤを採用している理由の一つでしょう。 では、140サイズから 150サイズへ変更したら、目的通りに性能を高める事ができるかを一緒に考えてみました。
 
 
問い   リアタイアヤのサイズ(幅)を変更すると、どんな影響が
  あるでしょうか?

 
  
以下の 表は、セミナー当日には出せなかったのですが、140サイズから 150サイズへ変更する場合に問題になりそうな点をチェックするのに必要なデータです。 尋ねると、ダンロップタイヤへ変更を検討されていたので、この表では 同社製のラジアルタイヤでの資料です。
(※ 仮に、タイヤメーカーが異なる場合には、交換の前後での比較が必要になります)
 
ここで、一番注目すべき点は「許容リム幅」と「タイヤ外径」です。
下の表の通りに交換する場合、「許容リム幅」はどちらのタイヤも同じで、MT-25 のリアホイールのリム幅は 4.00インチ という事でしたから交換は可能です。そして、「タイヤ外径」ですが、「タイヤ幅」が 10mm大きくなっても「扁平率」が 70% から 60% に変わるので、外径は小さくなる事が分かります。つまり、リヤの車高が 3.5mm 低くなる事でどんな影響を受けるのかを考えてみました。
 
 
タイヤのサイズ表示とリム幅など/ Tire size Indication and construction
   
 
ここで、
提案した事は、車両メーカーの走行テストチーム(試作・走行試験課)の事でした。
どんな車両でも、メーカーの設計チームが設計したままで販売される事はありません。市販されるまでに、必ず、専門の走行テストチームが様々な走行条件を試せる試験コースを使い、車両の確認作業を行ない、改善すべき点があれば試作部品を製作して、専門チームが部品を交換して走行テストを繰り返し、目標とした車両に仕上げる熟練の作業を行なうのです。そんな彼らが合格のサインを出した車輛が販売されているのです。
 
つまり、販売された車両は、全て、走行テストチームがテスト走行を繰り返し、想定したライダーが想定した条件で走行した場合に、最も“車体バランス”がまとまっている状態になっている事を考える必要があるのです。だから、彼らが合格のサインを出した時と異なるサイズのタイヤを装着すれば、テストチームがまとめ上げた“車輛バランス”は得難く、バランスが崩れる事は覚悟しなくてはならず、改めて調整してバランスをまとめる必要があります。仮に、走行テストチームがまとめた“車体バランス”を重視するならば、標準仕様のタイヤサイズを尊重した方がお勧めという事になります。
 
 

「車体バランス」を考えてみよう / Consider the Vehicle Balance

    
< What this section says >
Changing the tire size may upset the balance of the vehicle, so it should be carefully considered. This is because tire size is a fundamental factor in determining the motorcycle's dynamic characteristics, and after tire size is determined early in the design stage, After that, the "vehicle balance" is established through running tests on prototype vehicles, design changes, and adjustments.
   







 

  
  

タイヤの賞味期限を知っていますか? 
Do you know the Shell Life of your Tires

  
 

タイヤ交換 の話題が出たので、タイヤの「賞味期限」の話題を切り出しました。と言うのも、タイヤは製造直後から、紫外線などによる劣化が始まっているからです。仮に、紫外線が多く含まれる直射日光を遮ったとしても、空気中に含まれているオゾンによって“オゾン劣化”は避ける事が出来ないからです。しかし、タイヤメーカー各社は、販売と物流からの必要性から、避けられない自然劣化の存在を一切話題にせず、市場には劣化が進んで「賞味期限」が少なくなったタイヤも多く流通しているからです。
  
  
問い   タイヤの「製造日」は、どこで確認できるでしょう?
  タイヤの「賞味期限」は、何か月? 何年でしょうか?


最初に 説明したのは「製造日」です。「製造日」は、タイヤの左右どちらかのサイドウォール部に刻印されていて、通常は 4桁の数字で表されていて、最初の 2桁で製造した週(年始から数えて)を、後の 2桁で西暦年号の 下2桁が記入されています。

そして「賞味期限」ですが、食品の様に法律では決まっていません。その為、「製造日から日数が経っていない程に良くて、日数が経つ程に性能が劣化する」としか言えず、「賞味期限は、製造後12ヶ月以内だ」とこだわる人も居れば、「3年位は大丈夫だ」と捉えている人も居るなど。使用している人が独自に判断しているのが現状です。

しかし、確実に言える事は、タイヤ交換などの際にはタイヤの製造日を確認するべきだという事です。実際、タイヤメーカーの物流倉庫からショップに届いた時点で、製造から 5年が経過していたり、ショップの店頭に陳列してあるタイヤが 製造後 3年という事は珍しくないからです。だから、タイヤ交換をするならば、製造日に留意して、製造後1年以上経った品は販売しないショップを選ぶべきです。いつまでも、楽しく、安全にオートバイに乗る為にも、劣化が進んだタイヤを装着する事は、可能な限り避けたいものです。
 
 
タイヤの製造月日の確認方法 / How to check Tire manufacturing date  
 
< What this section says >
Changing the tire size may upset the balance of the vehicle, so it should be carefully considered. This is because tire size is a fundamental factor in determining the motorcycle's dynamic characteristics, and after tire size is determined early in the design stage, After that, the "vehicle balance" is established through running tests on prototype vehicles, design changes, and adjustments.


  

  




体重とリアのプリロード調整との関係は・ 
Front Brake is important when turning



タイヤの話が 一段落した所で、“車体バランス”の基本となる「リアサスペンションのプリロード調整」についての話題を出しました。 このプリロード調整の事は、ライダーの体重や荷物の重さに合せて行なう調整だと知っている人は多いのですが、それが持つ意味まで知っている人は少ないからです。ただ、話を進めるにつれて、少し意外な方向へと話題が広がりましたので、それも併せて報告します。
  
  
問い   リアのプリロード調整は“車体バランス”の基本ですが、
  どういう調整でしょうか?

 
最初に、一般的な「リアサスペンションのプリロード調整」の考え方から解説しました。
下の図で示した様に、スイングアームに固定されたリアホイール(タイヤ)は、スイングアームピポットを軸に上下に動く構造になっています。この上下動を支えているのがスプリングやダンパーで構成された「サスペンション ユニット」(通称:ショック)で、そのスプリングへの「プリロード」(初期荷重)の量を調整するのが「プリロード調整」です。

そして、ライダーが乗車した時に、リアホイールの上下動(ホイールストローク)の 1/3 だけ沈み込む様に、プリロードを調整するのが一般的な「リアサスペンションのプリロード調整」です。つまり、走行中、路面の凸部(突起)などに対処する為にストローク量の 2/3を残し、路面の凹部(陥没)などに対応する為にストローク量の 1/3 を確保するという考え方です。これは、オートバイに限らず、人間がスポーツをする際の膝の曲げ方にも相通ずる考え方です。
 
 
リアのプリロード調整の考え方/ Standard Preload Adjustmento for rear suspension  

  
「車体バランス」を考えてみよう / Think about Vehicle Balance

 
 
ここに、見逃してはいけない大切な事が2つあります。
  
一つは、車両メーカーでテスト走行を行なう際、オートバイの車体バランスを整える為に、リアのプリロード調整を必ず行なっている事です。従って、テスト段階で確かめられている“車体バランス”を再現する為には、同様な考え方で調整をする必要がある事です。
  
二つ目は、どんな体重のライダーであっても、乗車時(1G'時)にホイールストローク量の 1/3を使う(沈み込む)調整を行なうという事は、ライダーが誰であっても、リアの車高は同じになるという事です。つまり、ライダーを問わず、“車体バランス”が求めるリアの車高は一定の値にまとまるという事です。 これは、次の話題、「前後の車高バランス」と「フロント車高」に繋がる基本となる事です。
 
  
 
   
最適な“車体バランス”を実現するには、
最適なリアサスペンションのプリロード調整 が必要です
The suitability of the front spring can be confirmed by the change
in the steering angle immediately after turning.
最適なリアサスペンションのプリロード調整をすれば。
ライダーの体重を問わず、乗車時のリア車高は一定になります
It is impossible to strictly check the suitability of springs on public roads.


「車体バランス」を考えてみよう / Consider the Vehicle Balance


  
< What this section says >
When adjusting the rear preload, it is basic to adjust the rear wheel to the position where the rider is riding and the rear wheel is 1/3 of the stroke amount. Considering that vehicle
manufacturers also make similar adjustments to "vehicle balance", we should follow this basic adjustment.
At this time, it should be noted that the ride height of the rear is the same regardless of the rider's weight.

   
 
 
   
 

  
 
 


フロントとリアの車高バランスは? 
Front and Rear Height Balance




そして、次に一緒に考えてみたのが「フロントの車高」でした。
 
前の章で、基本の「リアサスペンションのプリロードの調整」を行なうと、どんな体重のライダーでも乗車時(1G'時)の「リアの車高」が一定の値になる事が分かった後で、その「リアの車高」とバランスする「フロントの車高」も一定の値になるのでは?と話を進めたのです。
 
  
 

問い

  リアの車高が定まった後、“車体バランス”を保つには
  フロントの車高はどうすれば良いでしょうか?

     
    
「車体バランス」を考えてみよう / Consider the Vehicle Balance  
     
つまり、車輛メーカーの走行テストチームがまとめ上げた“車体バランス”を再現するには、“車体バランス”がとれた車体姿勢にする必要があるのです。そして、乗車時の「リアの車高」はライダーの体重に関係無く一定の値になるのですから、乗車時の「フロントの車高」もライダーの体重に関係無く一定の値になるという事です。

しかし、乗車時(1G'時)の「フロントの車高」は、ライダーの体重に大きく影響します。そして、体重50s のライダーと体重100sのライダーの場合、乗車した時の「フロントの車高」を考えてみました。ライダーの体重は前後タイヤに均等に分散するとすれば、体重50sのライダーの場合よりも 100sのライダーの場合、フロントタイヤへは 25Kgf 大きな荷重がかかります。フロントフォーク1本あたり 12.5Kgf 大きな荷重がかかるとして、フロントフォークスプリングのスプリングレートを一般的な 0.7Kgf/mm だとすれば、12.5 ÷ 0.7 = 17.85・・の計算から、約18mm も「フロントの車高」が違ってしまう事になります。

最適な乗車時(1G'時)の「フロントの車高」は、走行テストチームが想定した体重のライダーに合わせて“車体バランス”をまとめ上げた結果、フロントフォークの固定位置をミリ単位で指定してある筈です。ですから、「フロントの車高」が 約18o も違えば、
当然、“車体バランス”はどちらか一方、または両方共に、バランスがとれている状態ではない事が分かります。
 
 
 
         ****************
 
  
以上、ここまで解析を一緒に進めた所で“セミナー”は終了しました。
  
『 最適な、リアのプリロード調整 』と『 前後の車高バランス 』については、下欄で紹介している通り、別コラムで解説していますので、関心のある方は是非ご覧下さい。
また、前後のサスペンションの「スプリング」も、想定したライダーに合せて“車体バランス”をまとめ上げる為に、スプリングのレート(ばね定数)も選択がされています。ですから、ライダーに合せた最適な“車体バランス”を求めるならば、体重に合せてスプリング(レート)を変更するのが最善です。いつまでも、楽しく、安全なオートバイライフを求めるならば、スプリング(レート)の変更と最適化は、“車体バランス”を整える為にも、とても大切な事です。


< What this section says >
It is very important to adjust the vehicle height balance between the front and rear. This is because vehicle manufacturers adjust the balance of the vehicle by balancing the front and rear vehicle heights according to the weight of the expected rider.
At this point, you should keep in mind the difference between your weight and the expected rider weight. This is because the rear preload adjustment ensures that the rear ride height is the same regardless of rider weight, but the front ride height varies depending on the rider.
If you are lighter than the expected rider, the front ride height will be higher than the ride height for a well-balanced vehicle, and vice versa if you are heavier, the front ride height will be lower. To balance the vehicle, you need to adjust the fixing position of the front fork according to the weight difference between you and the expected rider.











<補足説明> あとがき 
Additional Explanation

 
 

“セミナー”当日には行なえなかったのですが、ここで、車輛メーカーが公表しているデータを使って、MT-25 と MT-03 を比較をしてみましょう。データの比較を丁寧にすれば、設計陣と走行テストチームがまとめ上げた“車体バランス”がどんな設定なのか? と、判る事も多くありますので、そんな独自の解析による想像{妄想?}を、関心のある方は、是非、ご覧ください。


ヤマハ MT-25 と MT-03 の主な仕様諸元 / Yamaha MT-25 and MT-03 Specification


『 スプリングから見る、車体バランスの違い 』

データ(使用諸元)から、MT-25 と MT-03は、エンジンの排気量が 約70t 違い、変速ギア比が違うだけで、「軸間距離(軸距)」や「車輛重量」がほぼ同じで、ステアリング特性を左右する「キャスター角」や「トレール量」も同じ、更に「タイヤサイズ」も同じですから、操縦性や安定性を含めた“車体バランス”も殆ど同じ設定だとわかります。

唯一、気掛かりになるのが、エンジン特性の違いとタイヤがラジアルタイヤが標準設定になっている事です。と言うのも、それらは車体とサスペンションに与える負荷や荷重が大きくなる為、増加する荷重に合せて、サスペンションのスプリング(レート)設定が変更されている可能性がある事です。そこで、両車のスプリングやリアサスペンションユニットの部品番号を確認すれば、両車共に同じ部品が使用されていました。
これらの事から、MT-25 に標準装備されている バイアスタイヤを、MT-03 で標準装備されている 同サイズのラジアルタイヤにしたとしても、走行テストチームで充分に走行確認された“車体バランス”の範疇に入っている事が分かり、交換してもバランスを崩す原因にはなり難いでしょう。
 
 
  
『 変速ギア比から見る、車体バランスの違い 』 

ただし、変速ギア比を較べると、MT-25 と MT-03 は 全く別の車両と言える程に違う特性の車両だと言える事が見えてきます。
 
クランクシャフト軸からクラッチユニットを通して変速ユニットへエンジン出力を伝える際の減速比・[1次減速比]は両車共に同じですから、エンジン内部の基本的な構造は同じだと判ります。さらに、チェーンで後輪へ出力を伝達する際の「2次減速比」が同じですから、ドライブスプロケット と ドリブンスプロケットも同じ構成だと判ります。
 
そして、変速ギアの各ギアごとのギア比を較べると、MT-25 での 6速のギア比と MT-03 の 5速のギア比が同じに設定してあり、MT-03 の 6速は更に高速走行に適したギア比になっています。この事から、一見すれば、MT-03 は 排気量の余裕を活かして、高速巡航走行に適した車両設定になっている様にも見えますが、ギア比のつながり・[ステップ比]を見れば、高速巡航用ギアではない事が判ります。
 
 
ヤマハ MT-25とMT-03 偏速ギアのステップ比/Yamaha MT-25 and MT-03 Gear Step    
  
[ステップ比]とは、各ギア間でギアチェンジをする際、エンジン回転数の繋がりを左右する要素で、基本的には 各ギア間でさほど変わらない「ステップ比」で設定を行ない、高速側になる程に小さな値へしていって、高速側で増す空気抵抗に対応するのが基本です。 
この[ステップ比]設定の基本から見れば、MT-03 の「ステップ比」は滑らかに変化させてあり、発進から 6速まで、ギアチェンジでエンジン回転がスムーズに繋がる事が判ります。一方、MT-25の場合は、「ステップ比」の繋がりが悪く、MT-03 よりも 低いギア比の 1速で高い回転数まで回してから 2速へ変速する運転が求められている事が判ります。
 
なぜ? こんな設定になっているかと言えば、恐らく、エンジンの「トルク特性」が大きく違うからだと思われます。以下の表の通り、MT-03 の「トルク特性」(青色線)は 全体的にフラットで、その上、4300 rpm(回転/分)の付近で 意図的に 高いトルク値を出す特性に仕上げてある、非常に特徴的な特性を示しています。この低回転域で豊かに設定された「トルク特性」と、理想的な「ステップ比」とで、MT-03は、発進から高速域まで、低い回転数から高回転まで、すべてのギアを使いこなした走行が楽しめる設定になっているでしょう。
 
一方、MT-25 は、「最大トルク」を MT-03 よりも 1,000 rpm 高いエンジン回転数で発生させている事と、1速のギア比の低さと 2速ギアへの「ステップ比」が大きく設定されている事から、MT-03 とは異なり、4,000 rpm 付近でのトルクの盛り上がりは無く、エンジンを高回転まで回しての変速が求められ、2速ギアでの低速走行を苦手とする等、MT-03 とは運動特性や操縦性に大きな違いがあるでしょう。 別な言い方をすれば、MT-25 は MT-03 を主体に開発された車両だと言えるでしょう。
  
 
ヤマハMT-03 トルク曲線「/Yamaha MT-03 Torque Characteristics  


< What this section says >
A comparison of the specifications of the Yamaha MT-25 and MT-03 shows that most of the specifications are the same, except for the engine displacement and gear ratio. In addition, the front spring and rear suspension unit of his MT-03, which is equipped with radial tires as standard, are the same parts as the MT-25. From this, even if the MT-25 tires are changed from bias to radial, it is a combination that has been thoroughly tested, so it can be seen that there is no problem at all. And comparing the gear step ratios, he clearly has a better connection with the MT-03. this is. This is because the MT-03 engine has excellent torque characteristics in the low rotation range. MT-25 indicates that it is a derivative car made according to the Japanese tax system.






担当講師:小林 裕之
  
Instructor : Hiroyuki Kobayashi






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