オートバイが旋回する力・旋回力は、タイヤ本体から発生している“旋回モーメント”に大きく依存している事はあま認識されていません。そのため、その“旋回モーメント”を有効に活かした安全な運転方法も殆ど認識されず、教習所だけでなく一般の運転講習会でさえ、効率良く旋回して、より高いグリップ力を生む安全性の高い運転方法は一切推奨されていません。
一般に推奨され、安全と言われる運転方法は、旋回中はリアブレーキをしっかりと効かせ、フロントブレーキは積極的には使わないようにという方法ですが、この運転方法では車体に働く旋回力が弱いだけでなく、タイヤへ適切な荷重が与えられないので、グリップ力の低い転倒のリスクの高い運転方法になります。この運転方法を推奨する際には、その運転方法によって生まれるリスクの説明は必要でしょう。
GRAでは、どちらかの運転方法に偏った伝え方はしません。力学的にオートバイの動きを説明して、その力学を理解した様々な運転手法を身に付ける事を勧めています。
ここで、当日のクリニックで解説した、ターン中に、減速時と加速時の前後のタイヤに働く旋回モーメントの向きについて簡単に解説します。
先ず、ターンしながら減速の際には、前後のタイヤ共にターン方向・内側の向きへタイヤを旋回させようとする旋回モーメントが働きます。そして、加速の際には、ブレーキとは逆の向きの力がリアタイヤに働くので、リアタイヤだけにターン方向・外側の向きへとタイヤを旋回させようとする旋回モーメントが働きます。
つまり、バンクさせている時に前後のタイヤにブレーキをかける事は、自動車のAWS(四輪操舵)の高速走行時と同様に、旋回しようとする力を弱めて安定させる方向へ働いている事になります。その上、旋回中に前輪(フロント)ブレーキを積極的に使わない事は、減速によって前輪へと移動する荷重を前輪のグリップ向上の為に使わない事ですから、ますます旋回力は失われる事になります。
一般的に推奨されているリアブレーキを多用する旋回効率が悪くグリップ力も低い運転方法はとても広まっていて、当日受診した人もその運転方法に頼った走り方しかできないと私は判断したので、力学に沿った効率の良い運転方法を提案して、同意を得られた後に簡単な練習方法を行なってもらいました。 それは、リアブレーキを一切使わないで、左右の旋回が必要な練習コースを走行するというものです。
因みに、リアブレーキを使用したかどうかの判断は、走行後にリアブレーキ(キャリパー)の温度を計測する事で行ないました。僅かでもリアブレーキを使用すれば、非接触式赤外線温度計の表示は変化するので、受診した人も真剣に取り組みました。
コースの特徴は、比較的おだやかなターンが可能なセクションが続くものの、途中にターンの切り返しと積極的な(フロント)ブレーキによる旋回が求められる設定になっています。特に ゴール直前のターンでは明確なバンク操作とフロントブレーキによる旋回力の発揮が必要になっていて、練習開始直後は誰もクリアできなかったのですが、徐々に運転操作を学んで、最終的にはクリアできるまでになりました。これで、リアブレーキの適切で使い過ぎない利用方法を学べば、更に効率が良く、グリップ力の高い安全な運転技術が身に付くでしょう。
『 最後に 』
オートバイは、真っ直ぐ走るだけでも喜びを与えてくれる乗り物です。しかし、その正しい整備方法やライダーに合わせた適切な調整方法は広くは認識されてなくて、正規販売店であっても充分なレクチャーやケアが期待出来ない事は珍しくありません。その上、オートバイのメカニズムや力学が導く適切な運転方法を伝える施設やイベントは殆ど無いと言える現状ですから、本当の意味での“いつまでも、楽しく、安全な オートバイライフ ”を得るには難しい点が多くあります。
GRAは、長年の経験や知識を活かして、オートバイや運転の不安を取り除き、よりオートバイとの親密度を高めるより適切な運転方法為の情報発信を行ない、社会とのより良い関わり方を築くために、様々な情報発信や講習活動、啓発活動を続けていきますので、機会があれば“クリニック”を受診される事をお勧めします。また、受診が難しい方へはオンライン“クリニック”での対応を致しますので、不安な事や困っている事、知りたい事などをご連絡ください。