このエントリーをはてなブックマークに追加


オートバイ基本講座「心」のページへ移動します オートバイ基本講座「技」のページへ移動します オートバイ基本講座「体」のページへ移動します オートバイ基本講座「バイク」のページへ移動します


Common sense and insane

オートバイは四輪車以上に繊細なバランスの乗り物です。構成する全ての部品、車体の寸法設計、駆動方式などが協力しあって乗り味や操縦安定性を生み出しています。しかし、販売が至上命題のメーカー広報や二輪ライターはそれらを無視して、特定の要素や仕様だけでオートバイを語りがちですが、それは大きな過ちです。

 Motorcycles are more delicately balanced vehicles than four-wheeled vehicles.
 All the constituent parts, body size design, drive system, etc. cooperate to create
 ride quality and steering stability. However, maker public relations and motorcycle
 writers, whose sales are the highest priority, tend to ignore them and talk about
 motorcycles only with specific elements and specifications, which is a big mistake.



 <Q&A>
 
駆動方式による車体挙動の違いは ?

  Q&A  about Reaction of Driving Force



  オートバイのライディングには四輪車以上に細かな配慮や考察が必要です
  「定説」や「都市伝説」を鵜呑みにせず、正しい理解で楽しく安全に過ごしましょう




【 質 問 】 Question


チェーンドライブではスロットルを開けるとリアが沈み、シャフトドライブではスロットルを開けるとリアが浮くと言われています。何故ですか。
また最近のシャフトドライブではリアが浮くような挙動はほどんどなくなりました。何故ですか。
 
 

  It is said that in chain-driven vehicles, the rear sinks when the throttle is opened, and in shaft-driven vehicles, the rear floats when the throttle is opened. why.
Also, in recent shaft-driven vehicles, the behavior that the rear floats has almost disappeared. Why is that?
 











【 解析 1】 Analysis 1. チェーンドライブ車の車体挙動 
               Body behavior by chain drive
 



「リアが沈む」とか「リアが上がる」というのは、オートバイで体験する車体挙動の一つですね。ここで、最初に注目したい事は、「リアが沈む・上がる」という現象は、エンジンからの駆動力を駆動輪(一般にはリアタイヤ)に伝えた時、その駆動力の“反力”によって発生している事です。
そして、この“反力”が働く向きや大きさを考える事が、オートバイの車体挙動を正確に理解をする事になり、それが リアタイヤのグリップを失わず、転倒の危険性の少ない適切な車体セッティングの解析になるのです。

では、ここでは、以下の 3通りの条件設定をして考察を進めましょう。
    
  1. 駆動輪が固定されている場合  when the drive wheel is fixd
  2. 駆動輪をブレーキで停止させている場合  when stationary using brake
  3. 走行中の駆動力による車体挙動  behavior change during driving

  
 
  
1. 駆動輪が固定されている場合 (完全停止)

Vehicle befavior when the drive wheel is fixd


最初に、
質問文にあった様な「スロットルを開けると ・・」の現象の多くは停止時に駆動力を駆動輪(多くはリアタイヤ)にかけた時と、走行中に急加速などで一気に大きな駆動力を与えた時の二通りの状況が考えられます。質問ではその点が明確にされていないので、停止時の場合と走行時のそれぞれで考えてみましょう。
そして、停止時の場合には、ブレーキ以外の何らかの方法で駆動輪(タイヤ)が固定されている場合とブレーキで停止している場合に分けて、先ずはブレーキは使わない場合を想定します。

そう考えると、駆動輪・リアタイヤ(ホイール)は大地と一体化しているので、駆動輪を地球と見立てて、その地球に繋がったチェーンをエンジンの駆動力で引っ張る事と同じですから、下図の様なイメージになります。
 
 
チェーンドライブ車、駆動時に作用する力 (完全停止時)

  
地球に繋がれたチェーンに駆動力を与えると、その反力としてエンジンが地球側へと引っ張られる事になります。 そして、地球に繋がった箇所はオートバイと同じく回転できる様になっていますから、エンジンと地球はお互いに引っ張り合った結果、圧倒的に軽いエンジンが上方へと回転(右回転)させる力が働きます。 つまり、チェーン駆動の場合は、エンジンと一緒に車体全体が上へと持ち上がる現象が生まれます。

現代のオートバイに慣れ親しんだ人にとっては俄かには信じられない現象でしょうが、オートバイの誕生初期の車両(下画像参照)を見れば、車体を上方へ持ち上げようとする力が発生する事が理解出来るでしょうか。


初期のオートバイ、ベルトドライブ車
 

次に、この解析結果は体感している現象と違う!と違和感を感じている人を助ける解析をしましょう。それは、オートバイが誕生してから 50年ほど経った頃に装着され、現在は殆どすべてのオートバイに備わっているリアサスペンションによる影響を考えてみましょう。

現代の殆どのオートバイが採用しているリアサスペンションの形式はスイングアーム式サスペンションで、車体またはエンジンに固定された トレーリングアーム(スイングアームと呼ばれています)に後輪が固定され、そのアームが路面状況や荷重変化に合わせて回転運動する形式です。
では、このスインアーム式サスペンションの車両で、チェーンに駆動力を与えた場合を考えてみましょう。
   

     
チェーンドライブ車、スイングアームサスペンがある時に作用する力 (完全停止時)
 
 
一般的な スイングアーム式サスペンションの場合、スイングアームを前方で支えている ピボット位置よりもチェーンに駆動力を与えているエンジン出力軸は前方へ離れています。 そのため、チェーンに駆動力を与えると、エンジン側を上方へと持ち上げる力が発生すると同時に、サスペンションが備わっているために、スイングアーム ピボット軸を下方へと下げる力も一緒に働きます。結果として、エンジン(車体)を上方へ持ち上げるよりも、サスペンションに縮んでもらって、車体を下げる動きの方がはっきりと表れる事になります。(サスペンション形式やストローク量によって異なる場合もあります)

つまり、多くの人が体験している通り、チェーンドライブ車で駆動力をかけた時の挙動の“ルーツ”はこの現象になるでしょうが、話はそんなに簡単ではありません。

もう少し、リアサスペンションの話にお付き合いください。それは、チェーンドライブ車でも車体が下がらない車両もあるからです。 下の画像をご覧ください。
 
  
ビモータ KB2、スイングアームピボット軸と出力軸を同一に設計された車両
 
 
この車両は、1980年代初期、フレームビルダーとして一世風靡をした ビモータ社が発表した KB2 という型式の車両で、この車両の特徴はスイングアーム ピボット軸と エンジン出力軸が同じになる様に設計されていて、この車両であれば 前記の様なサスペンションが縮んでリアの下がる現象は理論的には起きない事になります。

この車両の様に、ビモータ社は同様な設計の車両を2車種販売していますが、その主な目的はチェーン問題を回避する為だったと推測されます / 当時のチェーンはエンジン出力の向上と較べて耐久性が低く、スイングアーム式サスペンションはその耐久性を更に悪化させる大きな要因を持つ為、そのスイングアーム式サスペンションの欠点の排除が目的だったと思われます。
ただ、時代の経過と共に、素材改良や組立寸法精度の向上やシールチェーンの開発など、チェーンの耐久性が向上するにつれて、複雑で剛性確保が難しいこの形式は少なくなりました。
 
 
しかし、同じスイングアーム式サスペンションの車両であっても、スクーターなどの様に、エンジンそのものがスイングアームと一体化した方式(ユニットスイング方式)では、例えチェーン駆動であっても、車体を下方へと下げる力は生まれない事は覚えておく必要もあるでしょう。
  
   
  When the drive wheels are fixed to the earth in a typical chain-driven car, the engine side is lifted upward by the driving force applied to the chain. However, if the vehicle is equipped with a standard swing-arm rear suspension, apart from the force to lift the engine side, there is also a force to contract the suspension at the same time, resulting in a downward force on the vehicle body. This is a special case, but in the case of a vehicle with a swing arm where the pivot axis of the swing arm and the engine output axis are on the same axis, the driving force will not push the vehicle body downward.  





2. 駆動輪をブレーキで停止させている場合

Vehicle behavior when stationary using brake

  
次は、駆動輪(リアホイール)をブレーキで停止させている時に、チェーンに駆動力をかけると車体にどんな力が働くのか考えてみましょう。

実は、リアブレーキで停止している場合は、ブレーキを使わないでリアホイールを完全に固定している場合と大きくは変わりません。その理由は、スイングアーム式サスペンションを採用している限り、働く力の向きに大きな違いがないからです。
ただし、リアブレーキのキャリパーの固定方法によっては、その挙動の出方に違いが生まれる場合もあります。 つまり、リアブレーキキャリパーがスイングアームに固定されている一般的な形式とは異なり、下の画像の様に、スイングアームに固定されず、後輪軸を中心にして回転する自由度があるフローティング形式の場合は、車体挙動がはっきりと出難い傾向になります。


リアブレーキ、フローティング式

しかし、注意したい事は、キャリパー本体と車体側を繋ぎ、回転の自由度を与えている部品・ロッドの長さや車体側固定位置によって挙動の変化度も異なる事です。 リアブレーキの操作による車体挙動の発生を穏やかにする事が目的で選ばれるフローティング形式ですが、その設計によって効果は大きく違う事になります。
  

  When the drive wheel is brought to a standstill using the brake and the driving force is applied to the chain, the vehicle body behavior is basically the same as when the drive wheel is fixed to the ground. However, the behavior differs somewhat depending on how the brake caliper is fixed. If a floating mount system is used, which allows the caliper to rotate around the axle to some extent, the behavior will be smaller than if the caliper is fixed to the swing arm, which is used in many vehicles. However, the amount of change varies greatly depending on the length of the floating rod and the fixing position on the vehicle body.  




3. 走行中の駆動力による車体挙動

Vehicle behavior due to driving force while driving

  
最後に、走行中にチェーンに駆動力を一気に与えた場合の解析ですが、この解析こそ一番大切な要素ですが、同じサスペンション形式であっても、サスペンションの設定・セッティングなどによって全く異なる現象、車体挙動を生み出す事になるのです。そして、その車体挙動の違いによって、リアタイヤへの荷重も大きく異なり、タイヤのグリップ力や安定性も大きく変わるからです。

駆動輪・リアタイヤは停止状態でないので、駆動輪は地球より遥かに軽く、その上 走行中であれば停止状態より遥かに小さな抵抗(駆動抵抗)になっています。そのため、地球に例えた時とは異なる力の作用を考える必要があるので、4ページ目でまとめて解説の予定です。ご期待ください。

  Finally, the analysis of the car body behavior when the driving force is applied to the chain all at once while driving, this analysis is the most important and critical. This analysis is the most important and critical, because even with the same suspension type, it can cause completely different body behavior and phenomena depending on the suspension settings and other factors. The difference in the behavior of the vehicle causes the load on the rear tires to vary greatly, and the grip and stability of the tires to vary greatly as well.

However, since it is necessary to consider the effects of forces that are completely different from when the drive wheels are stationary, I will explain this again on page 4 using explanatory diagrams.
 



少し長い説明になりましたが、チェーン駆動車だから 「リアが沈む」という訳ではない事が少しは伝わったなら幸いです。 ただ、一番大切に伝えたい事は、駆動力をかけた時に「リアタイヤのグリップを失いやすいセッティング」なのか、「失いにくいセッティング」なのかという、とても大切な事を考えて欲しいのです。

次ページの『シャフトドライブ車の場合』に続いて、ページ4 で 一番大切な事を解説しますので、ぜひ、ご覧下さい。
 

 
 
 


解説記事と画像 :小林 裕之
  
Texts and images : Hiroyuki Kobayashi





わからない用語は、ページ下段の【用語の解説辞典】で確認できます
「質問」を送信される方には説明を返信しますので、利用してください


前ページへ移動します
次のページへ移動します



【 関連する記事、資料 / Related and Reference Articles







クリエイティブ・コモンズ・ライセンス ページ中の画像は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています
文章等は許可無く転載することを禁じます / Copyright GRA All Rights Reserved.